南仏の国際機関から考える
古くて新しい経済制度~オリーブとオリーブオイルにみる銀行のようなもの
国際機関で勤務することになりフランスに移住してきましたが、現在は国内でも有数の人口密度の低いオート・プロヴァンス県というプロヴァンス・アルプス・コート・ダジュール地域圏(通称: PACA)に住んでいます。
この地域圏は名前からもおわかり頂けるように、ニースやカンヌなどの都市のあるコート・ダジュール地方を含み、またエクサンプロヴァンスやマルセイユなどのプロヴァンス地方や、南フランスアルプスまでも含む海から山までカバーする広大な地域です。(場所によっては春には一日でスキーと海水浴が出来るらしいです)
この地域の特産品として有名な植物としては「ラベンダー」や「オリーブ」が挙げられますが、今回はこの「オリーブ」について驚くような事を知ったのでご紹介したいと思います。
この田舎の町の郊外には非常に多くのオリーブ畑が広がっていますが、多くの町中の個人家庭の庭木にも多く植栽されているようで、私達がここにで借りた家の庭にも四本のオリーブの木が植えてありました。最初の年の秋には、庭に大量のオリーブの実が落ちて、こんなに実がなるものなのかと驚きました。
南仏/プロバンス料理がその他の地中海沿岸地域の料理の特徴と同様に多くのオリーブオイルを使う事もあってこの町の特産品としてオリーブオイルがあり、通常流通している地中海沿岸国(イタリア、スペイン、ギリシャ等)各地のものと並んでスーパーマーケットにこの町のオリーブオイルが並んでいます。
さてこの町のブランドのオリーブオイルは、旧市街から少しはずれた所にあるオリーブオイルの地域協同組合で精製されています。この協同組合の店舗ではオリーブオイルをそのグレード別に販売しており、無論旅行で来た人のお土産向けにボトルでも売っていますし、地域の住民の為の詰替え用の量り売りもしています。
この共同組合なのですが、秋になるとどうやら業者やプロフェッショナルな生産者以外の一般家庭の方々が自家用車の荷台や後部座席にカゴいっぱいのオリーブを持ち込んでいるのを見つけました。最初の年はわからなかったのですが、今年はチャレンジしてみようということで事前に下調べをしたところ「とにかく最低重量である15kgを持っていくと受け付けてくれる」ことがわかったので、とある週末に家族で庭のオリーブを摘むことにしました。
半日ほど丁寧に落ちているものではなくまだ枝に残っている実を回収し、カゴいっぱいでちょうど15kgになったので協同組合に持っていきました。
協同組合につくと、まず最初に「口座」を開設します(名義は家庭)。この最初の口座開設の必要最低単位が15kgだったようです。
開設が終わり計量が終わるとプリントされた紙を渡されますが、そこには口座名義と預け入れた量(そして残高)が明記されています。「通帳」のようなもので、以後追加の預け入れは15kg以下で良いとのこと。
一体どうやって使うのかというと、欲しいときに容器を持参し「オリーブオイル」で引き出すようになっているようです。
こうして地域の多くの家庭のオリーブを回収・口座管理する流れにより、持ってきた人は「自分で圧搾することなく協同組合で精製してもらった地元産のオリーブオイルを自家用で必要な時必要な分だけ引き出せる」利点があり、また協同組合はおそらく「預け入れで受け取ったオリーブの何割か(これが原価率なのでしょうが)を用いて外販用のオリーブオイルを精製し、粗利を元にこの協同組合を運営できる」という利点があるものと考えられます。
このまるで「銀行」のような制度は、とても「古くて新しい経済」ように思えます。
おそらく昔から、このように地域のためにオリーブを精製する協同組合があり、それは「存在すること」が目的であり「常に地域住民の生活必需品でありオリーブオイルを皆に提供するメカニズム」であり続けることがミッションの組織であると思います。
近隣の村に似たような雰囲気の(協同組合のような)「ワイナリー」があるのですが、もしかするとこれも自家栽培の葡萄を持ち込んでワインで引き出す銀行なのかもしれません。我が家には葡萄はないので実体験できませんが、そのうち機会をみて調べてみたいと思っています。