今だからこそ聴いてほしい このアルバムに収められた「アメリカの素晴らしき多様性」
Entertainment as a “Righteous Act”
10年がかりのコラボレーションを完成させたモレノ(左)とパークス PHOTO ILLUSTRATION BY GLUEKIT. SOURCE IMAGE: COURTESY OF NON SUCH RECORDS
<アメリカ大陸で生まれた名曲の数々を新たなコラボで。今だからこそ聴きたい異色コンビ・モレノ&パークスのルーツ音楽集>
ノンサッチ・レコードからリリースされたアルバム『スパングルド』は、グアテマラ出身のシンガーソングライター、ギャビー・モレノと、アメリカの音楽プロデューサーで作編曲家のバン・ダイク・パークスの、10年がかりのコラボレーション。レトロな中南米ポップスを巡るノスタルジーと、抗議の音楽のみずみずしいアレンジが混在。アメリカで醜い排外主義的風潮が見られるだけにタイムリーだ。
「アメリカの多様性、多種多様な文化と音楽の素晴らしさをたたえたかった。特に移民の貢献をたたえるのが私の義務という気がした」と37歳のモレノは言う。パークスによれば、カバー曲とモレノの旧作の新録音で構成されたこのアルバムは「今にうんざりしている人たちが逃避できる場所、快適ゾーン」だ。
現在ロサンゼルスを拠点に活動するモレノは20年前に渡米。シンガー・ソングライターのトレイシー・チャップマンの前座のほか、イギリスの俳優でミュージシャンのヒュー・ローリー、アリゾナ州出身のインディー・ロック・バンドのキャレキシコ、長年デヴィッド・ボウイのキーボードを務めたマイク・ガーソンらとのコラボや、米公共放送NPRの生放送ラジオ番組『ライブ・フロム・ヒア』への出演で注目された。
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その傍ら英語、スぺイン語、ポルトガル語での演奏活動を続け、自らも作曲・レコーディング。NBCテレビの長寿コメディー番組『パークス・ アンド・リクリエーション』のテーマ曲も手掛けた。
一方のパークスはロサンゼルス音楽界の大御所で自称「アメリカ革命の申し子」、年齢はモレノの2倍超の76歳。自身のレコードも制作し高い評価を得ているが、最も有名なのはコラボ、特にビーチ・ボーイズの60年代半ばの未完成アルバム『スマイル』でのブライアン・ウィルソンとのセッションかもしれない(『スマイル』はウィルソンが2004年に完成版をリリース)。今回の『スパングルド』ではモレノがボーカル、パークスが編曲を担当した。
2人は04年、ロサンゼルスでの内輪のライブで出会った。その後、10年にデンマークで毎年開催されるロスキルド音楽フェスでの演奏にパークスがモレノを誘った。それから「お互い大好きな曲について話すようになった。彼は私が知らなかった中南米の曲をたくさん教えてくれた」とモレノは言う。
ボーダーラインを越えて
『スパングルド』は、ビートルズの『リボルバー』のカバーデザインを手掛けたクラウス・フォアマンによるジャケットからアレンジと曲に至るまで、1960年頃に幕を閉じた歴史的な時期を思い起こさせることを狙ったとパークスは言う。アメリカ人がオープンな心とオープンな耳を持 っていた「別の時代」だ。「ラテン音楽入門さ」
収録曲のほとんどは、50年代にニカラグアやエルサルバドルの街のラジオの前やメキシコの映画館で耳にしたかもしれない曲を思わせる。
例えば「ヌーべ・グリース」はもともとぺルーで生まれた失恋のワルツ。メキシコの映画スターで歌手のペドロ・インファンテが50年代前半にヒットさせた。パークスはカリフォルニア州の喫茶店で演奏していた60年代前半にラテン音楽に恋をし(「正直、中南米の曲を覚えることで独 身生活でも気が紛れた」)、歌詞の意味が分かるようになるずっと前からこの曲に心を奪われたという。「『ヌーべ・グリース』は歌い方こそ違うがブルースだ」