今だからこそ聴いてほしい このアルバムに収められた「アメリカの素晴らしき多様性」
Entertainment as a “Righteous Act”
より政治色が目立つ現代的な2曲も収録。ライ・クーダー、ジム・ディキンソン、ジョン・ハイアットの「アクロス・ザ・ボーダーライン」と、西インド諸島のトリニダード・トバゴなどの音楽「ソカ」の王者デービッド・ラダーの「イミグランツ」だ。
前者は物理的・比喩的な境界線を越える苦悩を描いている(「見つけたいと願う以上に多くを失いかねない」と歌われる)。もともとはジャック・ニコルソンが倫理的に葛藤するテキサス州の国境警備員を演じた82年の映画『ボーダー』のテーマソングだが、古くささは感じない。モレノ&パークス版の目玉は、ジャクソン・ブラウンのゲストボーカルとクーダーによるスライドギターのソロだ。
「イミグランツ」のほうは98年にハイチからの移民がニューヨーク市警に暴行を受けた事件に抗議して作られた。完成に時間がかかったのは最初のイメージどおりに作ると2人が決意していたからだと、モレノは言う。「最初は私がバン・ダイクにギター演奏のデモテープを送って素晴らしいアレンジを送り返してもらう予定だったけど、それだと全部デジタルで、私たちはオーケストラと一緒にやりたかった。でも予算がなくて」。結局、レコーディング費用はモレノが払った。
「このアルバムはギャビーが自腹を切ってまでやった正しき行いだ」とパークスは言う。「エンターテインメントだが、ホットな話題について政治的に考えている」
2人を知るための4曲
「アマポーラ」
ギャビー・モレノ
2008年のアルバム「スティル・ジ・アンノウン」より。1920年代のキューバの歌だが、1941年にジミー・ドーシー・オーケストラの演奏でアメリカでリリースされ大ヒット、ビルボード1位を獲得した。
「アヴェ・ケ・エミグラ」
ギャビー・モレノ
2012年にリリースされたギャビー・モレノのアルバム『ポスタレス』より。モレノが歌うこのオリジナル曲からは、夢を抱いてアメリカに足を踏み入れた移民の1人としての彼女自身の体験の一部が伝わってくる。
「サーフズ・アップ」
バン・ダイク・パークス
ビーチ・ボーイズの古典的アルバム『サーフズ・アップ』より。ウィルソン版『スマイル』にも収録。決してサーフィンの曲ではない。憧れと胸騒ぎを感じさせる曲はウィルソン、印象的な歌詞(「一直線に並ぶ破滅のドミノ」)はパークスの作。
「ジ・オール・ゴールデン」
バン・ダイク・パークス
1967年のデビュー・アルバム『ソング・サイクル』より。ロックンロール以前のアメリカのルーツ音楽からえりすぐった数種をミックス。スティーブン・フォスターとチャールズ・アイブスが大麻を吸って一緒にポップスを作ったらこんな感じかも。
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[2019年11月 5日号掲載]