コラム

独走するトランプ前大統領の再登板に死角はあるのか

2024年01月29日(月)13時23分

しかし、出口調査を見ると、トランプ陣営はアイオワ州と全く同じ弱点を示しており、学園都市、州都、そして郊外部での問題を抱え続けている。また、2016年のトランプに投票した穏健層や穏健派のケーシック前オハイオ州知事に投票した層は、トランプ陣営ではなくヘイリー陣営に流れた。このことからも、米国の社会的分断が進展する中で、トランプ前大統領が分断の象徴として穏健派の有権者から忌避されていることが分かる。

はたして、このようなトランプ陣営が抱えた弱点とトランプ前大統領の驕りが今後の選挙戦にどのような影響を与えるだろうか。


分断の象徴としてのトランプ前大統領

現在、世論調査の数字からは、トランプ前大統領がバイデン大統領を大統領選本選で破る可能性が示されている。

そのため、トランプ大統領が自らの副大統領候補者として、クリスティー・ノーム・サウスダコタ州知事などのMAGA(Make America Great Again)支持者を選ぶこともあり得る。その場合、穏健派のトランプ離れが加速することで、トランプ前大統領は自らの優勢な立場を自分の手で壊すことになるかもしれない。

現状では、MAGA副大統領候補者の任命は、トランプ前大統領がバイデン大統領に敗北する要因となる唯一の悪手と言えるだろう。

副大統領候補選びとその戦略的意味合い

一方、副大統領候補者として、オーソドックスな保守派から選ぶか、または、穏健派とのバランスを取った人物を選ぶかした場合、トランプ前大統領は大統領選挙には勝てるかもしれないが、その後の政権運営に対して副大統領から首に鈴をかけられることになる。

特にニューハンプシャー州予備選挙直前に、次の山場であるサウスカロライナ州予備選で決定打となるトランプ推薦を行った同州選出のティム・スコット上院議員の論功行賞は大きなものだった。あのタイミングでの支持表明はヘイリー前国連大使に対する期待を根本から打ち崩すのに十分であった。彼はアフリカ系上院議員で保守派でもあり、上院ナンバー2のジョン・スーンから予備選挙で推薦状を得ていた人物だ。トランプ前大統領が不得意な連邦議会との交渉役として打ってつけの人物である。まさに、彼はアフリカ系のペンス副大統領のようになるだろう。

ヘイリー前国連大使が副大統領候補者になる可能性もゼロではない。(現時点では両者ともに可能性を否定しているが。)ヘイリー選対の幹部はラストベルト地域の政治関係者によって構成されている。そのため、ヘイリー選対は全体として敗北が見えていたとしても、予備選挙から容易に撤退せず、同地域も含めた接戦州でのヘイリー支持のパフォーマンスを誇示することに拘るはずだ。それらの得票はトランプ前大統領がバイデン大統領に確実に勝利するために、喉から手が出るほど欲しい票だからだ。

トランプ前大統領の首に鈴をつけたがっているビリオネラが予備選挙で連敗したヘイリーに更に資金投下を加速させている理由もそれだろう。それらの人々は何としてもヘイリー前大統領を副大統領候補者として送り込むための取引材料を作ろうとしているのだ。

トランプ前大統領の選択と未来のアメリカ

したがって、トランプ前大統領には副大統領候補者として、MAGA系、保守派系(=議会指導部)、穏健派の3種類のカードを持っている。どのカードを切るかは、バイデン大統領とのレースの状況次第と言える。

もしもトランプ前大統領が自らの人気を絶対のものと見做し、MAGA系の副大統領候補者を選ぶなら、それはトランプ前大統領にとっては運命を変える一手になってしまうかもしれない。

彼が己のプライドと勝負の手堅さのいずれを選ぶかは、トランプ新政権が誕生する場合、現在のトランプ前大統領の本質を見抜く重要なポイントになるだろう。

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プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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