コラム

G7サミット「経済の強靭化」で日本が果たす役割

2021年06月21日(月)16時20分
G7サミット

G7各国がグローバルなサプライチェーン、特に保健、安全保障、環境などの国際公共財の分野における関係性を強化することを謳った意義は極めて大きい Jack Hill/REUTERS

<G7サミットで、特に注目される要素は「クリティカル・サプライ・フォーラム(CSF)」の設立に向けた提案が行われたことだ>

G7サミットで策定されたコンウォール・コンセンサスのポイントの1つは、経済の強靭性に関する様々な提言である。自由と民主主義の価値観を共有するG7各国がグローバルなサプライチェーン、特に保健、安全保障、環境などの国際公共財の分野における関係性を強化することを謳った意義は極めて大きい。

バイデン政権の戦略は対中国という安全保障上の観点から死活的重要性を持つ物資のサプライチェーンを見直し、世界のGDPの50%以上を有する民主主義諸国が共同して中国との交渉にあたるというものだ。バイデン政権は2021年2月24日大統領令を発令し、医薬品、半導体、レアアース、電気自動車用バッテリーにおけるサプライチェーンの見直し計画を公表しており、今回のG7サミットではその戦略を更に一歩推し進めるための国際的なコンセンサスの形成に成功したと言えるだろう。

特に注目される要素は「クリティカル・サプライ・フォーラム(CSF)」の設立に向けた提案が行われたことだ。同フォーラムは当初は3つの分野、保健、レアアース、半導体に焦点を当てる旨が述べられており、危機時のG7プラス即応メカニズム整備、サプライチェーンのストレステスト情報共有、レアアースの情報共有プラットフォームの設立などが強調されている。

中国による戦略物資を使った外交攻勢に備える仕組みを構築

つまり、これらの優先事項は中国による戦略物資を使った外交攻勢に備える仕組みを構築するということを意味する。

パンデミックなどが生じた際に迅速に情報と物資を共有する即応体制を整備することは、民主主義国陣営が世界の外交交渉の場で有利にゲームを進めることを可能とする。パンデミック自体への対応力をつけることは当然だが、それに付随するワクチン外交などの影響力競争に勝利する体制を作ることは外交上重要である。

また、半導体やレアアースなどの中国依存度が極めた高い戦略物資に関する情報共有と多角化は、中長期的に予測される中国側の輸出禁止措置などに対抗するための能力を底上げすることを意図している。米国は依然としてレアアースの中国依存度が高く、レアアースの有効活用・再活用・多角化が急務となっている。

日本はこのサプライチェーン問題に関する知見・経験がある

一方、日本の菅総理は4月にバイデン大統領の初直接面会時に経済の強靭化に関するベースとなる部分を事前協議し、既にその戦略の根幹を共有して動き始めている。日本は半導体生産の一部では一定の強みを維持しており、中国によるレアアース禁輸措置を経験・克服した国でもある。そのため、他のG7各国よりも同サプライチェーン問題に関する知見・経験を有しており、その体制構築に関して主導的な役割を担うことができるだろう。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story