コラム

米国大統領選挙を見据えて、誰がポスト安倍の最も良い選択肢か

2020年09月04日(金)15時15分

石破元幹事長は防衛大臣としての経験を有している。この意味では一見して日米の防衛協力を進める重要な局面では良い選択肢のように見える。

ただし、7月2日に石破氏が「辺野古新基地の再検証求める」コメントをメディアに発表したことは、日米関係を円滑に進める上で大きな障害となるだろう。米国側はこの問題について蒸し返す日本の政治家に辟易しており、石破氏の主張がポジショントークではなく信念ならば確実に日米同盟に亀裂をもたらすだろう。

また、石破氏は防衛大臣の他は農林水産大臣、地方創生担当相しか経ておらず、経済に関係する重要閣僚の経験がない。世界中が経済政策面で協調してコロナ禍による危機から立ち直ろうとしている中、その見識に些かの頼りなさを感じる。また、トランプ・バイデン両政権でも貿易問題は引き続きテーマとなることは明白であり、その問題に十分に対応できる素養があるとは思えない。

日米同盟を円滑に強化していくためには

一方、菅官房長官はオバマ政権・トランプ政権の両政権に官房長官という政府の要職で対応してきた経験を持つ。安倍政権は官邸主導の外交・安全保障体制に移行しており、菅官房長官も民主党・共和党の外交・安全保障に関する知見を当然に共有していることが想定される。昨年には官房長官としては珍しい外遊をしており、ペンス副大統領らとの交友を深めている。

また、日米同盟を円滑に強化していくためには国内法制整備も重要である。菅官房長官は、外交・安全保障に関する法規整備の前面に立ち、2014年からは沖縄の基地問題に関しても沖縄基地負担軽減担当大臣として取り組んできた経験を持つ。また、直近では拉致問題担当相を兼ねており、日本独自の外交課題についての見識も有している。

官房長官は月例経済報告等を取りまとめる立場にあり、当面の経済・財政政策の安定的な運営の継続を認める点もマーケットにとっては安心材料となるだろう。今、景気の腰砕けを発生させる可能性がある首相の誕生は回避するべきであることは言うまでもない。それは世界的恐慌の引き金になりかねない愚挙であり日米同盟を揺るがす恐れがある。

したがって、外交・安全保障の観点に立てば、次期首相に相応しい人物は菅官房長官以外にはいない。内政の要とされる官房長官であるが、実は日米同盟強化の観点から菅官房長官が果たしてきた役割は大きい。

米国大統領選挙を見据えて、日本の首相に誰が選ぶべきであるのか。日本と東アジアの未来を左右する重要な決断となるだろう。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

TikTokのCEO、米情勢巡りマスク氏に助言求め

ワールド

ウクライナ戦争志願兵の借金免除、プーチン大統領が法

ワールド

NATO事務総長がトランプ氏と会談、安全保障問題を

ビジネス

FRBが5月に金融政策枠組み見直し インフレ目標は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story