コラム

現代安全保障のパラドクス...テロに悪用されるAIにより世界が直面する危機

2025年04月10日(木)16時45分

【国際社会の対応】

こうしたリスクに対し、国際社会は多層的な対応を模索している。

第一に、技術規制と標準化の推進である。AIの軍事利用や悪用を防ぐため、国連やNATOなどの国際機関は、AI技術の輸出管理や倫理的ガイドラインの策定に取り組んでいる。

例えば、2021年にUNESCOが採択した「AIの倫理に関する勧告」は、AI開発における透明性と説明責任を強調し、テロ組織への技術流出を防ぐ枠組みを提供する。

しかし、これらの規制は法的拘束力を持たず、遵守は各国の自主性に委ねられているため、実効性には限界があり、国家間対立が激化する今日では、AI規制における国際協調がより難しくなる可能性がある。


第二に、情報共有と監視体制の強化である。テロ組織のAI利用を早期に検知するため、国際刑事警察機構(INTERPOL)などは、サイバー空間でのテロ活動の監視を強化している。

AI自体を活用した予測分析も進んでおり、例えば、米国国土安全保障省(DHS)は、AIを用いてオンラインプラットフォーム上の過激派コンテンツを特定するプロジェクトを展開している。しかし、プライバシー侵害や誤検知のリスクが伴うため、市民の自由とのバランスが課題となっている。

第三に、民間企業との連携である。AI技術の大部分はGoogle、Microsoft、xAIなどの民間企業によって開発されており、彼らの協力が不可欠である。2024年時点で多くのテック企業は、自社技術がテロに悪用されないよう、利用規約の厳格化や異常検知システムの導入を進めている。

例えば、XプラットフォームはAIを活用して過激派のアカウントを自動的に凍結する仕組みを強化しているが、テロ組織が暗号化通信やダークウェブに移行する動きもあり、完全な封じ込めは困難が予測される。

第四に、国際法の適応である。現行の国際法は、AIを活用したテロ行為を明確に規制する枠組みを欠いている。ジュネーブ条約や国連憲章の下で、AI兵器の使用責任を誰が負うのか(開発者か使用者か)、また国家以外の実体(テロ組織)が使用した場合の法的対応が曖昧である。

2025年現在、国連安全保障理事会では、AIとテロリズムに関する新たな決議案が議論されているが、地政学的対立から合意に至っていない。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

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