コラム

「親子2代50年以上の支配の終焉」国際テロ情勢の観点からアサド政権崩壊を考える

2024年12月29日(日)08時09分

アルヌスラは、自由シリア軍など世俗的な政治目標を掲げる反政府組織とは違い、厳格なイスラム法(シャリア)による宗教国家建設を目標とするスンニ派ジハード組織であり、イラクで活動する「イラク・イスラム国(ISI)」の支援によって結成され、イラク・イスラム国の最高幹部アブ・バクル・アル・バグダディ(2014年6月にイスラム国の建国を宣言した指導者)がジャウラニを指導者に任命した。

アルヌスラにはイラク・イスラム国から多くの戦闘員や武器が供給され、米国は2012年12月にアルヌスラを国際テロ組織に指定した。


しかし、この頃からジャウラニは、米国などを攻撃するというグローバルな目標から距離を置き、アサド政権の打倒というローカルな目標にのみ集中する路線に舵を切ったと考えられる。

バグダディはイラク・イスラム国のシリア版をアルヌスラと捉え、双方が合併した組織として「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」などを自発的に名乗り、それを広報活動などで強調していたが、ジャウラニはそれを拒否し、アルヌスラ単体で活動を継続していく姿勢を貫いた。

また、ジャウラニは2013年4月にアルカイダの指導者アイマン・ザワヒリへ忠誠を誓い、正式にアルカイダ系統の組織になったものの、2016年7月にアルカイダから脱退した。その後、アルヌスラは複数の関連組織と合併し、2017年1月にシャーム解放機構が結成され、2024年12月に悲願だったアサド政権の崩壊を実現したのである。

ジャウラニが後にイスラム国の指導者となるバグダディと距離を置き、アルカイダと決別したのは、アルカイダという世界的に知名度のある負のブランドが、アサド政権の打倒という目標を達成する上で負担に感じたからだろう。

アルカイダ系ということで地元の市民や反政府勢力との関係が上手くいかなくなるのは、目標を達成する上でジャウラニにとっても得策ではなく、米国など外部勢力から不必要な空爆を受けるリスクも高まる。

ジャウラニは、今後のシリアを運営するにあたって穏健路線を強調し、シリアの復興と成長を進めていく上で諸外国との関係を重視するような姿勢を示している。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

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