コラム

名峰に囲まれた地「冬の桃の花」と国蝶・オオムラサキの追憶

2019年12月24日(火)16時15分

撮影:内村コースケ

第14回 韮崎駅 → 長坂駅
<平成が終わった2019年から東京オリンピックが開催される2020年にかけて、日本は変革期を迎える。令和の新時代を迎えた今、名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた>

map1.jpg

「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより

map2.jpg

これまでの13回で歩いてきたルート:YAMAP「活動データ」より

◆日本の象徴を見つめるガンダムサイズの女性的な観音像

7R400745.jpg

今回のスタート地点、JR韮崎駅方面から平和観音に向かうワインディングロード。正面に富士山が見えた

7R400762.jpg

七里岩の突端にそびえる韮崎平和観音

JR韮崎駅を見下ろす丘に、巨大な白い観音像が立っている。東京育ちの僕は、同様の観音像と言えばもっぱら神奈川県の大船観音だと思っていたが、そちらは高さ25mの半身像。東京湾を挟んだ千葉県富津市には、全身像で高さ56mの東京湾観音があるとのことだが、僕は実物を見たことがない。全国に広げると、群馬県の高崎白衣大観音(1936年・41.8m)、福岡県の久留米大観音(1983年・62m)、石川県の加賀大観音(1988年・73m)があり、建立年が新しくなるにつれ、巨大化している。1990年に完成した仙台大観音に至っては高さ100m。「観音像の巨大化のインフレ、ここに極まれり」である(参考までに、初代ウルトラマンの身長は40mと設定されている)。

さて、韮崎の観音様は、体高16.6m(台座込みで18.3m)と控え目だ。これは東京・お台場に1/1サイズの立像があったRX-78-2ガンダム(18m)と同等のサイズである。控え目だと言っても他の巨大観音像が大きすぎるだけで、実際に真下に行って見上げると圧倒される。正式名称は「韮崎平和観世音菩薩立像」。市民には「平和観音」と親しまれている。観世音菩薩は、本来男性だったとされるが、世俗的な信仰では女性と見る向きが多いため、性別のない中性的な存在とするのが一般的だ。その中で、この平和観音は非常に女性的なフォルムで造られているのが特徴的である。

全国の巨大観音像は大きく分けて寺が建立したものと、個人の篤志家が建立したものがあるが、この平和観音は後者である。韮崎の駅前で菓子商を営んでいた秋山源太郎という地元資産家が、韮崎の観光の目玉として、また、「平和で明るい町づくりのシンボル」として建てたのだという。1958(昭和33)年に着工し、翌年の伊勢湾台風による釜無川の氾濫で土台が流されるという苦難を乗り越え、1961(昭和36)年4月に完成。その2年前の皇太子殿下(現・上皇さま)ご成婚記念という名目もついている。

平和観音は、七里岩と呼ばれる釜無川沿いの崖状の台地の突端に立っている。視線の先には富士山がそびえ、ロケーションとしては国内巨大観音像の中でも最高の部類に入るのではないだろうか。観測史上最大と言われた今年の台風19号の被害が記憶に新しい中、自然災害を乗り越えて建立されたという経緯を知ると、災害大国・日本の象徴である富士山を見つめるその姿が、さらに慈愛に満ちて見えた。

7R400756.jpg

平和観音の視線の先には富士山がそびえる

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story