コラム

日本社会や弁護団にとって袴田冤罪事件はまだ終わっていない

2024年10月26日(土)15時00分
西村カリン(ジャーナリスト)

控訴を断念したのは「袴田さんが、結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、本判決につき検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではないとの判断」からだ。つまり、検察は巌さんが犯人ではないことが確実だから控訴しないのではなく、犯人だと思っているけど、かわいそうだから控訴しないという結論だ。

正直言って恐ろしい話だ。証拠の捏造については、10年以上前に裁判所がその可能性を指摘した。2014年3月に地裁の村山浩昭裁判長が「捏造された疑いのある証拠によって有罪とされ」たとし、冤罪疑いで再審開始を決定。同時に巌さんを釈放した。23年3月に東京高裁でも同じ結論となり、今回の判決で証拠は「捏造された」とさらに強い言葉で同じ結論が出された。


にもかかわらず、検察のトップである検事総長がいまだに捏造を否定し、反省をせず、捜査の問題を全く検証しようとしない。間違いや悪質な行為があったと絶対に認めようとしない検察は信用を失いかねない。

戦後、袴田さんを含め5人の元死刑囚が再審で無罪になった。その異常な状況を踏まえて、再審請求手続き制度を改正することが急務ではないか。

と同時に、日本の政府が本格的に死刑制度の廃止を検討することも必要だ。この仕事は政治家に任せるのではなく、国民一人一人が議論に参加することが望ましい。人ごとではない。冤罪の被害者になるリスクは誰にでもある。

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