日本にはもっとストが必要だ...「奇麗で安全で便利な国」なだけではダメ!外国では信じられない「声を上げない文化」
IRENE WANG–REUTERS
<日本の大手百貨店で61年ぶりのストライキ。一方、イランでは市民が頻繁に抗議の手段としてストを行使。日本とイラン、2つの国のストライキ文化の違いを「スト大国」イラン出身の筆者が探る>
東京都豊島区の西武池袋本店でのストライキは、8月31日のたった1日で終わってしまった。大手百貨店のストは1962年以来61年ぶりだそうである。
私は日本に住んで20年以上になるが、労使交渉で「ストも辞さない構え」といったニュースを聞くことはあっても、実際にストのためバスや電車が運休で困る、という事態に出くわしたことは一度もない。ヨーロッパやアメリカを何度か訪れたことがある人なら、ストで影響を受けたこともあるだろう。飛行機や電車が運行していない、ごみが収集されないので街が汚れ放題、といった状況だ。だが影響を受ける市民にも、ストをする労働者を責める雰囲気は一切ない。自分もストをするかもしれないから、ストをする他人の権利も守られて当然、というわけだ。
イランについてはストをするイメージがないかもしれないが、実は非常にストが多い国だ。会社ごとではなく産業ごとに労働組合があって、電車やバス、トラックの運転手などが団結してストをする。
一昨年話題になったのは、日本のウーバーと同じような業態で、飲食物の宅配や配車サービスを提供する「スナップ」に従事する人たちのストだ。彼らはスナップの手数料のうち、自分たちの取り分が低く抑えられていると訴え、首都テヘランを含む複数の都市で大きなストを行った。
面白いのは、彼らはスナップの従業員ではなく、日本のウーバーと同じように業務委託契約の形であることだ。そのため労働組合を持たないのだが、SNSでつながった配達員たちが団結し、大規模なストとなった。
イランはコロナ禍によるステイホームが始まる数十年も前からフードデリバリーが非常に盛んな国で、夜中にアイスクリームひとつでもデリバリーが頼める。老人からティーンエージャーまでイラン人にとってフードデリバリーは生活の必須サービスである。
そのため、このスナップのストは、ストに慣れたイラン人にもさすがに影響が大きく、その不便さをSNSでボヤく人たちが続出した。結局ストは1週間近く続き、その結果配達員たちは報酬の増額を勝ち取ったようである。
また、広さ約110ヘクタール、大通りの長さが10キロ、7万軒の商店が立ち並び、中東最大の市場であるテヘランのバザールも一斉に営業をやめ、数日間にわたって閉店することがある。主な理由は政府や地方政府への抗議のためであり、ここ数年は対ドルでのイラン通貨リアル安によるインフレに抗議するためのストが多い。バザールがストに突入すると大きなニュースとなるため政府が為替介入などに動くようで、一時的ではあるがドルが少し安くなったりもする。