コラム

申請理由は「旅行」に限る?...パスポート発給を拒否する「国が被告」の不思議な裁判の行方

2023年07月13日(木)15時43分
西村カリン(ジャーナリスト)
安田純平

ISSEI KATOーREUTERS

<報道目的であっても戦場に行くことが批判され、行くと「無責任」というイメージに...。パスポートを発給しない国の説明と根拠は?>

私は月に数回、裁判所で取材をしている。最近も驚いた裁判がいくつかあったが、今回はその中の1つについて書きたいと思う。

6月20日に行われた、原告がフリージャーナリストの安田純平さん、被告が国の裁判だ。パスポートの発給を拒否している国に対し、安田さんが訴訟を起こしている。

安田さんは2015年6月~18年10月の3年4カ月、シリア反政府勢力と思われるグループに拘束されていた(写真は18年の帰国後の記者会見での様子)。拘束中にパスポートを奪われたため、19年1月に再発行を申請したが、外務省から発給を断られたのだ。

国との闘いは3年以上続いているが、6月20日はクライマックスだった。なぜかというとその日は安田さんが1時間にわたって自分の弁護団、国の弁護士と裁判官の質問に答える当事者尋問が行われた。

異例なことに、本人が12年にシリアで撮影した映像が法廷のプロジェクターで投影された。それは裁判官に「この人は本物のジャーナリストだ」と証明するものだった。

安田さんはジャーナリストではないといったデマがずっとインターネットに投稿されているから、裁判官に向けて、そんな話は根拠がないと証明したのはよかったと思う。また、記者が戦場に行くことの重要性についても安田さんはしっかり説明した。

記者の本当の仕事とは何なのか、どんな役割を果たすべきなのか、戦場に行くときに何を注意すべきなのか。戦場に行く方法、どんな人に会うのか、危険性を避ける方法などを全て、彼は法廷で話した。

裁判官もそうした点は分かっているはずだろうと思ったが、残念なことに、日本では報道が目的であっても戦場に行くことは批判されるし、行く記者は「無責任」な人物というイメージができてしまった。

日本の政府も記者に対し、戦争中の国には「行かないで」と言う。マスコミも、報道の自由の観点からそうした状況は良くないとあまり指摘することなく、政府に従っている。

結果、戦場についての報道は海外マスコミやフリージャーナリストの取材に依存するようになった。

裁判での安田さんの説明はとても良かったが、フランス人記者である私からするとこの場面は「おかしい」とも感じた。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story