コラム

大雪とEV、欧州でのハイブリッド禁止...そして日本人のアピール下手の話

2023年02月03日(金)11時30分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
EV

(写真はイメージです) Scharfsinn86-iStock

<日本にはまだまだ世界一の技術がある。一方で欠けているのは「強気なアピール」>

この冬は北日本を中心に、ドカ雪が話題だ。数年前もそうだったが、大雪による車の立ち往生も既に何度か報道されている。立ち往生の現場を画面越しに見るたび、私は当分、電気自動車(EV)にはしたくないなと思う。大雪で車内に何時間も閉じ込められてエアコンが使えず、走るための電力もなくなるなんて、考えただけでゾッとする。ガソリン車もマフラーが詰まった場合の一酸化炭素中毒などに注意しなければいけないが、今のEVの技術では、氷点下の気温ではガソリン車が優位ではないかと感じる。

皆さんも、真冬に携帯電話の電池の減りがとても速いのを経験したことがあるだろう。EVも同じ理屈で、バッテリー残量がどんどん減る。各EVメーカーが公表している航続距離は、極寒の環境では当てにならない。車内に電気毛布を常備しておいて、立ち往生のときにはそれでしのぐなどというアイデアもネット上でシェアされていて、笑ってしまった。

私は北日本在住ではないが、雪などの天候のときこそ車を使用したいし、スキーにも行きたい。でも日常使いとレジャー用の2台車を所有するような余裕はない。だからバッテリー性能が飛躍的に良くなり、充電せずに何日でも車内を暖め続けることが可能になるまで、EVは購入しないだろう。

だが海外、特にヨーロッパでは政府が主導するガソリン車禁止の波が止まらない。しかもEUはハイブリッド車も2035年に新車販売を禁止する。ハイブリッド車は日本メーカーのお家芸である。世界のハイブリッド車販売台数では、1~3位を日本のメーカーが占める。そのため、ハイブリッド車が将来的に禁止になるのは、日本メーカーにとって打撃である。

だが、EVがハイブリッド車に比べて環境負荷が低いかというと、そうとは言い切れないらしい。走行時だけでなく、生産時から廃車までの環境負荷については、ハイブリッド車の負荷のほうが低いとする試算もある。

それなのに、なぜ将来的に新車で販売できるのはEVだけ、という国が出てきたのか。日本びいきの私には残念だが、日本人のアピール・駆け引き下手を考えれば、ハイブリッド車を世界基準にすることは難しかったのだろう。

トヨタはTHSというハイブリッド車の技術を無償で公開しているが、ガソリン車やEVよりもずっと難しい技術でノウハウがなければ実用化ができず、特に海外メーカーは導入に及び腰だった。そのため、世界の自動車トレンドはハイブリッド車を飛び越して、より設計も製造も簡単なEVに流れてしまったとも言える。ノウハウ提供も含めて他メーカーのハイブリッド車生産を助け、世界市場を大きくして、先行メーカーとして市場で優位を保つ。日本企業にはそういった戦略も取れたのではないか。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 5
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 8
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 9
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 10
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story