日本企業が欲しいのは結局、「自分で考える人」か「上司の意をくむ人」か
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<日本企業の入社式を取材したフランス人記者が「矛盾」を感じ、暗い気持ちになってしまった理由と、経営者に語って欲しかったこと>
4月1日に家電などの量販店を運営するグループの入社式に取材で出席した。「礼」などのリハーサルから式の終わりまで初めて目にしたが、入社式はフランスにはないものだから大変勉強になった。同時に、いろいろと考えさせられる経験だった。
新入社員はおよそ900人で、わりと大きい入社式だった。ルールも厳しかった。新入社員は会場内では自由に座ることはできず、前の数列は女性、後ろの数列は男性と決まっている。もちろん全員、黒のスーツに白のシャツ。司会者が「新入社員起立、礼、着席」と言ったら、全員同時に動く。それを本番前に何度も練習していた。数人でもタイミングが合わない場合は、やり直さないといけなかった。
社長の挨拶は約50分と長かったが、いろいろと興味深かった。もし私が新入社員だったらどう受け止めたかと考えながら聞いたし、新入社員の様子も観察した。
社長が何度も語った「良い子」「悪い子」
社長の挨拶には何十回も「努力」という言葉が出て、努力するかどうかで社員を評価するのかと驚いた。何を努力するのか、それをどう判断するのか分からないからだ。
社長は話の中で「悪い子」という表現を何度も使った。彼にとっては誰が悪い子かというと、「努力しない子」だ。努力せずに会社を辞めてしまう新入社員だ。「良い子」は努力して、行動する新入社員。これを聞いて、考え方の根底にあるものや目的は異なると思うが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の話し方を思い出した。マクロンは「成功した人」と「何の力もない人」の2つのグループで人を分ける。
社長は「上司が言うことはどうでもいい。大事なのは自分で考えて行動すること」とも強調した。ただ、それは目の前の光景ととても矛盾する内容ではないかと私は思った。皆同じ制服のようなスーツを着て、皆同じような姿勢を取る。皆同時に同じ言葉を聞いて、同時にメモを取る。
「自分で考えて行動する」とは真逆の態度だが、おそらく社長はそれを求めている。おそらく全ての新入社員も「自分で考えて」その態度を決めた。この「自分で考えて行動する」について、フランス人の理解と日本人の理解は異なるようだ。
私からすると「自分で考えて行動する=自由に決めて自由にやる」。でも、たぶん多くの日本人にとっては「自分で考えて行動する=相手が望んでいる態度をよく理解した上で行動する」。教育や社会環境によって、言葉の意味が大きく異なることに改めて気付いた。それでも日本人経営者とフランス大統領が言いたいことは同じ。両者とも同じような社員や国民を評価する。つまり行動する人、諦めない人、全身全霊で働く人。目標は成功と成長だ。