コラム

ウクライナ報道の私的「裏側」、そして日本人の変化の兆し

2022年03月23日(水)16時55分
周 来友(しゅう・らいゆう)
反戦デモ

東京・渋谷で行われた数千人規模の反戦デモ STANISLAV KOGIKUーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<例えば日本のテレビ局がウクライナで取材するとき、私の会社は依頼を受け、音声や動画を翻訳して番組で使えるものにしている。今回そんな仕事をしながら、気が付いたことがあった>

久しぶりに寝不足の日が続いている。ロシアのウクライナ侵攻が始まり、私の会社に通訳・翻訳の依頼が殺到しているのだ。

58歳の身にはなかなかこたえるが、「本業」での忙しさはありがたくもある。

私が経営する派遣会社には3200人余りの通訳・翻訳者が登録しており、対応言語は約125カ国語。主な取引先はテレビ局や雑誌社、新聞社で、報道分野の依頼が多い。

そのため、リサーチや映像・画像の使用許諾、取材コーディネートなどの業務も少なくない。

さらに、時差のある国の事件にも対応できるよう24時間営業の年中無休。ただ、夜間は従業員を置いていないため、私が自分で仕事をさばく。おかげで夜中の3時まで仕事をし、早朝6時に起きるような毎日だ。

業務の一部を紹介すると、例えば、日本のテレビ局がウクライナの国境付近で難民を取材したとしよう。

現場には地元の通訳もいる。しかし、通訳が難民の話す方言やなまりを聞き取れなかったり、正しい日本語で伝えられなかったりするケースがある。

そこで出番となるのがわが社の翻訳者たちだ。現地からリアルタイムで送られてくる音声や動画を細かく翻訳し、ニュース番組や情報番組で使える素材にする。

今回難しいのは、ウクライナ語が希少言語であるため、通訳・翻訳までこなせる人材が限られること。在日ウクライナ人は2000人に満たず、ウクライナ語を操れる日本人に至ってはまさに希少人材だ。

そのため、同様のサービスを提供する競合の中にはお手上げ状態の会社もあるようだ。その点、わが社は20人以上を抱えており、対応に問題はない。

わが社のウクライナ語人材の中には現地在住者もいるのだが、その1人からの連絡が突然途絶えたことがあった。

メールに返信がなく、電話もつながらない。数時間後に連絡がついてほっとしたが、空爆のサイレンが鳴ったため防空壕に避難していたのだという。日本では想像もつかない厳しい現実だ。

危険にさらされている彼らの状況を思うと、寝不足だとか仕事がもらえてありがたいなどと言っていられない。

今回痛感したのは、グローバル化がこれだけ進んだ今、どの国にとっても人ごとでは済まされないということだ。ウクライナ情勢によって国際秩序や世界経済が深刻な危機に陥りつつあるが、日本も決して例外ではない。

他国の平和と安定は自国の平和と安定につながるもの。このところ日本人は内向き志向が強まっていると感じていたが、今こそ海外の情勢に目を向け、行動を起こすべきではないだろうか。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ホンダと日産、経営統合視野に協議入り 三菱自も出席

ワールド

ウクライナのNATO加盟、同盟国説得が必須=ゼレン

ワールド

インド中銀がインフレ警戒、物価高騰で需要減退と分析

ワールド

米国、鳥インフルで鶏卵価格高騰 過去最高を更新
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能…
  • 5
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 6
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 7
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 8
    「オメガ3脂肪酸」と「葉物野菜」で腸内環境を改善..…
  • 9
    「スニーカー時代」にハイヒールを擁護するのは「オ…
  • 10
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 5
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 8
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 9
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story