ウクライナ報道の私的「裏側」、そして日本人の変化の兆し
東京・渋谷で行われた数千人規模の反戦デモ STANISLAV KOGIKUーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES
<例えば日本のテレビ局がウクライナで取材するとき、私の会社は依頼を受け、音声や動画を翻訳して番組で使えるものにしている。今回そんな仕事をしながら、気が付いたことがあった>
久しぶりに寝不足の日が続いている。ロシアのウクライナ侵攻が始まり、私の会社に通訳・翻訳の依頼が殺到しているのだ。
58歳の身にはなかなかこたえるが、「本業」での忙しさはありがたくもある。
私が経営する派遣会社には3200人余りの通訳・翻訳者が登録しており、対応言語は約125カ国語。主な取引先はテレビ局や雑誌社、新聞社で、報道分野の依頼が多い。
そのため、リサーチや映像・画像の使用許諾、取材コーディネートなどの業務も少なくない。
さらに、時差のある国の事件にも対応できるよう24時間営業の年中無休。ただ、夜間は従業員を置いていないため、私が自分で仕事をさばく。おかげで夜中の3時まで仕事をし、早朝6時に起きるような毎日だ。
業務の一部を紹介すると、例えば、日本のテレビ局がウクライナの国境付近で難民を取材したとしよう。
現場には地元の通訳もいる。しかし、通訳が難民の話す方言やなまりを聞き取れなかったり、正しい日本語で伝えられなかったりするケースがある。
そこで出番となるのがわが社の翻訳者たちだ。現地からリアルタイムで送られてくる音声や動画を細かく翻訳し、ニュース番組や情報番組で使える素材にする。
今回難しいのは、ウクライナ語が希少言語であるため、通訳・翻訳までこなせる人材が限られること。在日ウクライナ人は2000人に満たず、ウクライナ語を操れる日本人に至ってはまさに希少人材だ。
そのため、同様のサービスを提供する競合の中にはお手上げ状態の会社もあるようだ。その点、わが社は20人以上を抱えており、対応に問題はない。
わが社のウクライナ語人材の中には現地在住者もいるのだが、その1人からの連絡が突然途絶えたことがあった。
メールに返信がなく、電話もつながらない。数時間後に連絡がついてほっとしたが、空爆のサイレンが鳴ったため防空壕に避難していたのだという。日本では想像もつかない厳しい現実だ。
危険にさらされている彼らの状況を思うと、寝不足だとか仕事がもらえてありがたいなどと言っていられない。
今回痛感したのは、グローバル化がこれだけ進んだ今、どの国にとっても人ごとでは済まされないということだ。ウクライナ情勢によって国際秩序や世界経済が深刻な危機に陥りつつあるが、日本も決して例外ではない。
他国の平和と安定は自国の平和と安定につながるもの。このところ日本人は内向き志向が強まっていると感じていたが、今こそ海外の情勢に目を向け、行動を起こすべきではないだろうか。
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