コラム

日本人はたぶん知らない、日本の定期券がちょっと残念な理由

2020年09月23日(水)17時50分
トニー・ラズロ

ABLOKHIN/ISTOCK

<日本政府が「Go Toイート」キャンペーンを実施しているが、イギリス版「Go Toイート」はかなり評判がよかった。その理由の一部は交通網の「ゾーン制」にあるだろう。日本にとって参考になるところもあるはずだ>

日本政府が新型コロナウイルス対策の1つとして、飲食店を支援する「Go Toイート」キャンペーンを実施している。

同じような対策を模索している他の国に目を向けると、かなり評判のよかったのがイギリスの「Eat out to help out(助けるために外食しよう)」事業。注文した食事がとにかく約半額になるという分かりやすさも魅力だが、同国都市圏の公共交通網における「ゾーン制」もその成功に大きく貢献しているだろう。

「ゾーン制」とは、鉄道やバスの路線網を長方形、または同心円状に分けた区域(ゾーン)で区切って、そのゾーンをまたぐごとに運賃が加算される制度。

日本だと各駅間の距離に応じて運賃が細かく設定される制度が一般的だが、これら2制度の違いがコロナ対策に大きく影響してくるのは、利用者が定期券を持っている場合だ。

日本の交通網は信頼性も安全性もあって、優秀。定期券を買えばコスパがよくなるので、通勤・通学をする多くの人はそうしている。しかし、人の行動範囲がおおむね限られてしまうのが定期券の弱点だ。

例えば、東京都世田谷区の経堂駅の近くに住み、港区の新橋で働いているとしよう。会社に行くのに小田急線、千代田線、銀座線と3線を利用する。通勤定期代は月1万3000円。

この定期券を使って「Go Toイート」に参加しようと思えば、新橋と経堂、そして通勤ルート上にある他の駅で下車して飲食店に入ることができる。しかし、それ以外の駅なら別の切符が必要。

一方、ロンドン。この街で経堂に匹敵する、10キロくらい離れた郊外の住宅地からロンドン都心に通うための定期代は約2万円になる。東京よりずいぶん高額。しかし交通網はゾーン制になっているため、自由に通勤ルートを外れ、同じゾーン内の数多くの界隈に行ける。

もし東京がロンドンと同じ同心円状のゾーン制なら、定期券で新橋と同じ都心(ロンドンではゾーン1)にある築地に行って新鮮な海鮮を楽しめる。そして、経堂に近いが通勤ルートからは外れる下北沢(ゾーン2)へ最近注目のグレイヴィ餃子を試しに行ける。さらに、経堂からすると東京のほぼ反対側にある月島もゾーン2なので、そこの名物、もんじゃ焼きなんかにも手が届く。

パリ、バンクーバー、オークランドなど多くの都市がこのゾーン制を導入している。僕がかつて住んでいたベルリンもだ。

【関連記事】フランスから見ると驚愕の域、日本の鉄道のあり得ない素晴らしさ

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪中銀、政策金利据え置き 米関税の影響懸念

ワールド

イスラエル首相、「カタールゲート」巡る側近の汚職疑

ワールド

ルペン氏の有罪判決「非常に大きな問題」、トランプ氏

ビジネス

アングル:カナダで広がる国産品購入運動、米消費関連
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story