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【超解説対談】イーロン・マスクがトランプ政権で課せられた本当のミッションとは? 日本政府のトランプとのパイプ役は?(小谷哲男教授)

Decoding Trump 2.0

2025年2月19日(水)19時22分

――日米関係について。日本にトランプ氏が要求するのは何か。

まず求めてくるのは、アメリカの経済、アメリカの労働者・中間層にとってプラスになることです。

貿易協議を通じて、例えば日本車の輸出数の規制とか、アメリカの農産品をもっと日本が買うことがまず求められる。トランプ政権は化石燃料の生産を拡大しますが、エネルギーに関しても日本からの投資を求めたり、あるいはアメリカの石油ガスをもっと日本が買うことも求めてくると思います。

エネルギー面はウィンウィンの関係が実現できる。これを取っ掛かりに、貿易面での圧力をうまくかわすことが求められると思います。

トランプ政権とって中国が最大の敵ですが、台湾有事での封じ込め・抑止も重視します。2027年が台湾侵攻のタイミングとよく言われますが、これは今回のトランプ政権の3年目にあたる。トランプ氏はこれまで自分が大統領だったらウクライナの戦争はなかった、ガザでの紛争も起こらなかったと言うのですから、自分の任期中に台湾有事が起こっては困る。

だから抑止を強化していくわけですが、アメリカだけではできないので、日本を含めた同盟国に対してもっと防衛で貢献をしろと。1期目は米軍の駐留経費を増額しようという圧力でしたが、2期目はおそらく防衛費の更なる増額を求めてくる流れになる。

(日本は防衛費を)GDP比2%にしようとしてますが、それでは足りない。3%、4%にせよという圧力がおそらく来ると思います。

――新駐日大使はまさにその先兵になる。

今度来るグラス大使は、防衛面でも当然圧力をかけてくると思いますが、より経済安保の面で日本への圧力を掛けてくると思います。

1期目のときにグラス大使はポルトガル大使を務めました。当時ポルトガルが5Gでファーウェイを導入しようとしてたんですが、それを徹底的に批判し、止めた人物なんです。日本に対しても、おそらく中国との経済関係を切るように、デカップリングするようにという圧力をかけて来ると思います。

――グラス氏の息子が日本にいるという話もあるが。

私も詳しい話はわかっていないですが、それが圧力を弱めるかというと、おそらくそうではない。

――安倍首相亡き後、政府であれ民間であれ、日本にトランプ政権と強力なパイプを持つ人はいるか。

いないと思います。1期目は首脳レベルで、トランプ・安倍という関係がまさに一番近しかった。安倍総理なき今、トランプ政権またはトランプ大統領と強力なパイプを持っている人は政府内に見当たりません。

もちろんソフトバンクの孫正義さんは直接会っているが、かといって対日政策を大きく変えるような影響力を持つと思えない。日本政府の中にもそういう人が見当たらないので、これから関係を構築をしていくことになると思います。

近々あると言われている日米首脳会談で石破総理がトランプ氏との個人的な関係を築く必要があると思います。

――石破首相とトランプ氏の相性をどう見るか。

やってみないとわかりませんが、一般的なうまく行かないそうと言われています。石破総理は元々日本国内では安倍元総理の政治的なライバルだった。そのことは当然、トランプ氏の耳にも入っているんですが、トランプ氏の側近によれば、トランプはそういうことは気にしない。他国の内政に全く関心がない。

一番大事なのは、その人物が自分とディールできる相手なのか、ということなんです。今、少数与党であるという点は弱点になるかもしれませんが、最初の会談で3点ほどに絞って日米がウィンウィンの関係を築けるということを説明できれば、おそらく2人の間のパイプはできるのではないかと思います。

――石破首相は高校時代にゴルフ部だった。トランプ氏はゴルフ好きで有名。そこが突破口になるのでは。

ゴルフ外交は確かに一つの手段と思うんですが、トランプ・安倍のゴルフ外交は安倍・トランプだからできた。2人でカートに乗っている間にいろいろな話をしていた。それを石破総理ができるか、というとなかなか難しいと思うんです。

しかも石破総理は英語を全然話さないので、2人で濃い話はできないと思います。無理をしてゴルフ外交をする必要はないのではないかと思っています。

――そもそもトランプ氏は日本に興味があるのか。

今はないと思います。それは日本に関心がないというより、日本と間で抱えている大きな懸念がないということです。1期目の間に相当程度解消してしまったので。自動車とか農産品の話はありますけれども、今すぐ取り組まなければならない大きな課題はない。

それは悪いことでは決してないと思います。目をつけられてカナダやメキシコのようになるより、目を付けられていない間にこちらからウィンウィンの関係を提案して、うまく乗り切っていくのがいいのでは。

――80年代の日米経済摩擦の印象がトランプ氏には強く、だから日本を敵視しているとも言われる。

1期目はそうでした。でも、1期目の間に安倍総理がそれを完全に変えたんです。

トランプ氏の日本のイメージを完全に変えたので、もはや80年代の印象で日本と向き合うということはないと側近たちから聞いています。

――いずれにせよ石破政権は一からやり直す必要がある。

そうですね。安倍・トランプの関係とは別の、新しいトランプ氏との関係を石破総理は作る必要があると思います。

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