アメリカはすでに追い付かれた----「AI大国・中国」の台頭とイノベーションの行方
Emerging Chinese AI
いわゆる「千人計画」もその一環だ。外国人研究者の引き抜きとのイメージが強いが、実際には移民した中国人が主なターゲットで、中国からすると流出した知的エリートを取り戻す国策だった。
国策以上に効いたのは経済成長に伴う雇用環境の改善だ。2010年代半ばに入ると、頭脳流出の流れは大きく縮小する。
新設大学が増え、研究者のポストが設けられた。さらに、テック企業の給与上昇、ベンチャー創業ブームでの起業条件の改善などが追い風となった。こうして帰国を選択する留学生が増えた。
中国教育部によると、1978年から2019年にかけて中国から国外へ渡った留学生は累計656万人。学業を修了した留学生のうち86%が帰国した。
この数字は2000年代前半では25%程度しかなかった。より多くの知的エリートが中国でのキャリアを選ぶようになったわけだ。
中国本土出身者が中心のディープシークにも、帰国組がいる。潘梓正(パン・チーチョン)はハルビン工科大学を卒業後、オーストラリアのアデレート大学で修士、モナシュ大学で博士号を取得したAIの専門家だ。
半導体大手エヌビディアでインターンを経て正式オファーが出るという段階で、帰国しディープシークで働くことを決めた。
米ハーバード大学のグレアム・アリソン教授はSNSで潘について取り上げ、アメリカはディープシークを生み出すチャンスを失った、これは「銭学森ショック」の再来だ、と嘆いた。