アメリカはすでに追い付かれた----「AI大国・中国」の台頭とイノベーションの行方

Emerging Chinese AI

2025年2月12日(水)16時30分
高口康太(ジャーナリスト、千葉大学客員教授)

newsweekjp20250212032304-7630f8d3d4cb5f2a529bd5ec290de76fda4c4ed1.jpg

2009年に97歳で死去した「ロケット王」の銭学森を悼む出身地・杭州市の地元市民 ORIENTAL IMAGEーREUTERS

いわゆる「千人計画」もその一環だ。外国人研究者の引き抜きとのイメージが強いが、実際には移民した中国人が主なターゲットで、中国からすると流出した知的エリートを取り戻す国策だった。

国策以上に効いたのは経済成長に伴う雇用環境の改善だ。2010年代半ばに入ると、頭脳流出の流れは大きく縮小する。

新設大学が増え、研究者のポストが設けられた。さらに、テック企業の給与上昇、ベンチャー創業ブームでの起業条件の改善などが追い風となった。こうして帰国を選択する留学生が増えた。


中国教育部によると、1978年から2019年にかけて中国から国外へ渡った留学生は累計656万人。学業を修了した留学生のうち86%が帰国した。

この数字は2000年代前半では25%程度しかなかった。より多くの知的エリートが中国でのキャリアを選ぶようになったわけだ。

中国本土出身者が中心のディープシークにも、帰国組がいる。潘梓正(パン・チーチョン)はハルビン工科大学を卒業後、オーストラリアのアデレート大学で修士、モナシュ大学で博士号を取得したAIの専門家だ。

半導体大手エヌビディアでインターンを経て正式オファーが出るという段階で、帰国しディープシークで働くことを決めた。

米ハーバード大学のグレアム・アリソン教授はSNSで潘について取り上げ、アメリカはディープシークを生み出すチャンスを失った、これは「銭学森ショック」の再来だ、と嘆いた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IT大手決算や雇用統計などに注目=今週の米株式市場

ワールド

バンクーバーで祭りの群衆に車突っ込む、複数の死傷者

ワールド

イラン、米国との核協議継続へ 外相「極めて慎重」

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドローン攻撃」、逃げ惑う従業員たち...映像公開
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中