最新記事
フランス政治

ジャンマリ・ルペン死去──極右の影響がフランス主流政治に溶け込むまで

From Extreme to Mainstream

2025年1月14日(火)18時30分
オーレリアン・モンドン(英バース大学政治学上級講師)
ジャンマリ・ルペン REUTERS/Philippe Wojazer

ジャンマリ・ルペン REUTERS/Philippe Wojazer

<国民戦線創設者ルぺンが死去。その主張は今やマクロンにも取り込まれて......>

フランスの極右政治の主流化がほぼ完了したようにみえるタイミングで、かつて国民戦線と呼ばれた極右政党の創設者、ジャンマリ・ルペンが1月7日に96歳で死亡した。現役時代はフランス政治の悪魔とされてきたが、その党は今や、後継者である娘の下で権力の座を目前にしている。

1956年に国民議会(下院)議員に初当選したルペンは、たちまち極右の「顔」になった。72年に国民戦線の初代党首に就任。各種の弱小極右団体を統合すべく、国民戦線結成に動いた人々の中で党首に選ばれたのは、急進度が最も低いと評されたためだ。


もっとも、仲間内でより穏健だったというだけだ。自身の出版社からナチス歌曲のレコードを発表し、69年には戦争犯罪擁護で有罪判決を受けた。第2次大戦中のフランスの親独ビシー政権を懐かしむ発言も繰り返した。

その政治の核にあったのは人種差別だ。ただし、主流派による受容を目指す過程で、この核は反移民的懸念や愛国的プライド、さらには女性の権利やフランス世俗主義体制をイスラム教から守るという建前の裏に隠されていった。

80年代半ばまで知名度の低さに悩んでいた国民戦線が全国的にブレイクしたのは、81年に就任したフランソワ・ミッテラン大統領のおかげだ。社会党党首のミッテランは、財政危機を受けて緊縮路線に転換。支持率が低下するなか、中道寄りの右派を抑え込む意図もあって、国民戦線を後押しした。

本物の衝撃が訪れたのは、2002年大統領選でルペンが決選投票に残ったときだ。とはいえこれも、国民戦線の「不可抗的台頭」ではなく、フランスの政治と民主主義の現実が招いた結果だった。

フランスの暗い選択肢

ニコラ・サルコジが当選した07年大統領選も同様だ。ルペンの失墜と主流派の勝利の象徴とされるが、実際にはサルコジが自身をルペンに代わる候補に据え、極右支持者の票を大きく吸い上げていた。

この状況は、11年の娘マリーヌ・ルペンへの指導者交代を挟んで悪化を続けた。18年に党名を国民連合に変更した彼女は、15年にはユダヤ人差別的発言を看過できないとして党から父親を除名。その頃、既にサルコジは国民戦線の主張の多くを主流化していた。

だが、極右打倒のために極右的主張を取り込む手法に誰より熱心なのは、エマニュエル・マクロン現大統領だろう。マクロンが任命したジェラルド・ダルマナン内相(当時)が21年、「イスラムに弱腰すぎる」とマリーヌ・ルペンを非難したのがいい例だ。

マリーヌは政治生命に打撃を受けかねない汚職裁判の渦中にあるものの、今や事実上のキングメーカーと見受けられる。国民議会では、いずれの政党も過半数議席を獲得しておらず、国民連合がマクロン政権の生き残りのキャスチングボートを握っている。

極右の台頭はあらがえない流れだと、主流派エリートたちは受け入れたようだ。ならば、残る選択は1つ。極右政治を任せるのは極右勢力か、主流派の政治家か──。

極右の脅威と抜本的変革の必要性を深刻に受け止めない限り、フランスは「悪いもの」と「より悪いもの」のどちらかを選ぶしかない。

The Conversation

Aurelien Mondon, Senior Lecturer in Politics, University of Bath

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


国際移住者デー
すべての移住者とつくる共生社会のために──国連IOM駐日代表が語る世界と日本の「人の移動」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロス山火事、米経済全体への影響は限定的の見通し=エ

ビジネス

米国株式市場=S&P小幅高、ナスダックは下落 CP

ワールド

トランプ氏、関税徴収の新組織設置を表明 就任初日の

ワールド

ハマス、ガザ停戦案への回答まだ イスラエル軍撤退の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン」がSNSで大反響...ヘンリー王子の「大惨敗ぶり」が際立つ結果に
  • 4
    「日本は中国より悪」──米クリフス、同業とUSスチ…
  • 5
    日鉄はUSスチール買収禁止に対して正々堂々、訴訟で…
  • 6
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 7
    トランスジェンダーを抹消か...トランプ政権、気候変…
  • 8
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 9
    テイラー・スウィフトの「ダンス動画」が話題...「こ…
  • 10
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 6
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 7
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 8
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映…
  • 9
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中