最新記事
荒川河畔の「原住民」(17)

生活保護はホームレスを幸せにするか、それを望んでいるのか...福祉国家・日本の現実

2024年12月28日(土)15時50分
文・写真:趙海成

ホームレスと憲法「基本的人権の尊重」

世界中のほとんどの国に、多かれ少なかれ貧困人口が存在している。彼らは政府の救済を必要としている。

ホームレスは貧困人口のごく一部だが、政府の救済を受けない人が多い。自分の働きで生活を維持している。

確かに日本では、ホームレスが公園や橋の下や通りなどの公共の土地にテントを張ったり、住民がごみ集積場に置いた飲み物のアルミ缶を持ち去ったりしていることは、法律や条例に違反する行為であることを否定できない。

ならば、なぜ政府はその違法行為を徹底的・強制的な手段で取り締まらないのか。

それは、日本国憲法があるからだろう。日本の行政は憲法の「基本的人権の尊重」を最も重視しており、法律もその原則を破らないように作られている。

最近、大阪などでホームレス・路上生活者を排除する動きがあるが、排除される人たちの暮らしをどう支えていくのか。行政や地域が一体となってその対策を講じるべきだと思う。

ノーベル文学賞を受賞したロシアの詩人ヨシフ・ブロツキーは若い頃、逮捕され、「寄生虫」の罪に問われて流刑に処された。彼は定職に就かず、アルバイトで生計を立てていた。

かつて中国の大都市には、乞食をして定住所のないホームレスがたくさんいた。そしてここ数年、彼らは突然蒸発した。その中には、政府に収監され故郷に送還された人や、悪質な犯罪組織にさらわれたり騙されて臓器の「ドナー」にさせられたホームレスもいる。

北朝鮮に行ったことのある人によると、そこではホームレスの姿を見ることはないという。平壌だけでなく開城、元山などの地方都市でも見なかったそうだ。

もし日本でホームレスの姿を見ることがなくなったら、それはどんな意味を持つか。日本はどんな国になるのだろうか。


(編集協力:中川弘子)


[筆者]
趙海成(チャオ・ハイチェン)
1982年に北京対外貿易学院(現在の対外経済貿易大学)日本語学科を卒業。1985年に来日し、日本大学芸術学部でテレビ理論を専攻。1988年には日本初の在日中国人向け中国語新聞「留学生新聞」の創刊に携わり、初代編集長を10年間務めた。現在はフリーのライター/カメラマンとして活躍している。著書に『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)、『私たちはこうしてゼロから挑戦した──在日中国人14人の成功物語』(アルファベータブックス)などがある。


20250304issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年3月4日号(2月26日発売)は「破壊王マスク」特集。「政府効率化省」トップとして米政府機関をぶっ壊すイーロン・マスクは救世主か、破壊神か

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「ウクライナに耳を傾けて」、会談決裂

ワールド

インド10─12月GDP、前年比+6.2%に加速 

ビジネス

中国2月製造業PMIは50.1、3カ月ぶり高水準 

ワールド

韓国輸出、2月は1%増に回復も予想下回る トランプ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    米ロ連携の「ゼレンスキーおろし」をウクライナ議会…
  • 6
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 7
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 8
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 9
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 8
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 9
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中