最新記事
ジョージア

【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、何が起きているのか?...伝えておきたい2つのこと

2024年12月20日(金)19時45分
ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

ここで考慮せねばならないのは、大国には制裁をするリソースがあっても、残念ながらジョージアには、その政治的、経済的、安全保障的なリソースに余裕がないことだ。ジョージアにとっては「断交」さえも、ある意味では大胆なロシアへの制裁なのだ。

このような背景がまったく考慮されず、ジョージア政府がロシアに融和的だと次第に言われるようになっているのはなぜか。実際には、ロシアに対しては表面的には批判する構えをとりつつも、ジョージア以上にロシアとの利害関係を重要視している欧州の国々はけして少なくはない。外交関係における「虚像」にジョージアが絡めとられているように私には見えている。


 

現在、ジョージアに対する批判はだんだん強まっている。今年5月に可決された「外国勢力の利益のためにはたらく組織」を明確にするスパイ法は「ロシア法」と称され、10月26日に実施された議会選挙は「不正だ」と欧米諸国から批判されている。

そして、コバヒゼ首相がジョージアのEU加盟交渉を2028年末まで延期することを発表したことによって、本格的にロシアへの路線に舵を切ったと判断した多くの国民感情が爆発し、かつてないほどの大きなデモに発展している。

さらに、この状況に拍車をかけ、一段と複雑にしているのが、欧米諸国との関係が最も強い政治家であるズラビシュヴィリ大統領の存在だ。この状況下で「私が憲法の保証人となる」、つまりEU加盟はジョージアの憲法に定められた外交方針であるとして、政府批判にアクセル全開となっていることだ。

年末に任期を迎え、まさに「捨て身の構え」となったズラビシュヴィリ大統領を多くの若者が支持している。そして、EU諸国とアメリカもズラビシュヴィリ大統領の動きに連動して、ジョージア政府の要職に対して制裁を発表し、デモに参加する国民に発破をかける形となっている。

しかし、ここで忘れてはいけない最も重要なことは、2030年にEU加盟を必ず達成するとして、欧米諸国との関係修復を最優先事項にすることをジョージア政府が事あるごとに明言していることだ。

真相はどこにあるのか。そして今後の行方とシナリオは、私を含めて誰にも想像がつかない。ただし、2つだけ伝えたいことがある。

1つには、ジョージア政府とジョージア国民の対立の激化、あるいは伝統的に価値観を共有するジョージアとEUの外交的対立のエスカレーションは、ロシアを利することにしかならないということだ。だから何としてでも、今の状況を鎮静化させなくてはならない。

そしてもう1つは、私自身はジョージアのEU加盟への道を信じているということだ。ジョージアのこれまでの歴史的経緯を踏まえた上でも、長期的な視点でみても、EU加盟への道が揺らぐことは決してないと思っている。ただし、それがどんな道を辿るにせよ、戦争だけは回避しなければならないことは確かだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

不確実性高いがユーロ圏インフレは目標収束へ=スペイ

ビジネス

スイス中銀、必要ならマイナス金利や為替介入の用意=

ビジネス

米新政権の政策、欧州インフレへ大きな影響見込まず=

ワールド

EU外相「ロシアは安保の存続に関わる脅威」、防衛費
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 8
    トランプ新政権はどうなる? 元側近スティーブ・バノ…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    米アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが大型ロケット打ち…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中