【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、何が起きているのか?...伝えておきたい2つのこと
ここで考慮せねばならないのは、大国には制裁をするリソースがあっても、残念ながらジョージアには、その政治的、経済的、安全保障的なリソースに余裕がないことだ。ジョージアにとっては「断交」さえも、ある意味では大胆なロシアへの制裁なのだ。
このような背景がまったく考慮されず、ジョージア政府がロシアに融和的だと次第に言われるようになっているのはなぜか。実際には、ロシアに対しては表面的には批判する構えをとりつつも、ジョージア以上にロシアとの利害関係を重要視している欧州の国々はけして少なくはない。外交関係における「虚像」にジョージアが絡めとられているように私には見えている。
現在、ジョージアに対する批判はだんだん強まっている。今年5月に可決された「外国勢力の利益のためにはたらく組織」を明確にするスパイ法は「ロシア法」と称され、10月26日に実施された議会選挙は「不正だ」と欧米諸国から批判されている。
そして、コバヒゼ首相がジョージアのEU加盟交渉を2028年末まで延期することを発表したことによって、本格的にロシアへの路線に舵を切ったと判断した多くの国民感情が爆発し、かつてないほどの大きなデモに発展している。
さらに、この状況に拍車をかけ、一段と複雑にしているのが、欧米諸国との関係が最も強い政治家であるズラビシュヴィリ大統領の存在だ。この状況下で「私が憲法の保証人となる」、つまりEU加盟はジョージアの憲法に定められた外交方針であるとして、政府批判にアクセル全開となっていることだ。
年末に任期を迎え、まさに「捨て身の構え」となったズラビシュヴィリ大統領を多くの若者が支持している。そして、EU諸国とアメリカもズラビシュヴィリ大統領の動きに連動して、ジョージア政府の要職に対して制裁を発表し、デモに参加する国民に発破をかける形となっている。
しかし、ここで忘れてはいけない最も重要なことは、2030年にEU加盟を必ず達成するとして、欧米諸国との関係修復を最優先事項にすることをジョージア政府が事あるごとに明言していることだ。
真相はどこにあるのか。そして今後の行方とシナリオは、私を含めて誰にも想像がつかない。ただし、2つだけ伝えたいことがある。
1つには、ジョージア政府とジョージア国民の対立の激化、あるいは伝統的に価値観を共有するジョージアとEUの外交的対立のエスカレーションは、ロシアを利することにしかならないということだ。だから何としてでも、今の状況を鎮静化しなくてはならない。
そしてもう1つは、私自身はジョージアのEU加盟への道を信じているということだ。ジョージアのこれまでの歴史的経緯を踏まえた上でも、長期的な視点でみても、EU加盟への道が揺らぐことは決してないと思っている。ただし、それがどんな道を辿るにせよ、戦争だけは回避しなければならないことは確かだ。
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