韓国12.3戒厳令が教える直接選挙による大統領制の負の側面
すべてを委ね、すべてを奪う国民
政治経験をもたない大統領は経験者を国務総理(首相)に据えるが、国民は首相には目をくれず、政治初心者の大統領にすべてを委ねて問題が起きると大統領の責任を追求する。
朴槿恵は直接的には崔順実の国政介入で罷免となったが、弾劾されたもう一つの理由としてはセウォル号沈没事故があった。朴槿恵政権が発足した翌14年4月16日、修学旅行生325人など乗員乗客476人が乗船していた大型旅客船「セウォル号」が沈没して300人を超える死者・行方不明者が出た。
事故原因は不適切な改造や過積載とされるが、国民は朴槿恵政権に不信の目を向けた。朴槿恵が事件発生後に対策本部に現れるまでいわゆる「空白の7時間」があったことや、海洋警察の初動措置が不適切だったなど、朴槿恵大統領の責任だという声である。セウォル号沈没事故以降、景気の悪化が続いて国民の不信が積もったところに崔順実事件が明るみになり、弾劾へ進んだのだ。
次期大統領にふさわしいのは?
戒厳令から1週間経つが、既に尹錫悦大統領は、一部の人事の承認を除いて職務停止状態となっているが、与党関係者によると「どのような場合でも退陣は考えていない」という。最大野党・共に民主党は弾劾訴追案を14日にも再提出する構えをみせ、与党内にも若手議員を中心に「国政の停滞を回復するためには弾劾やむ無し」とする声が上がっている。とはいえ人気投票を勝ち抜ける大統領候補はいない。
各種世論調査会社の調べでは、「次期大統領として誰が最もふさわしいか」という問いに対して、李在明(イ・ジェミョン)共に民主党代表が47.5%と圧倒的なリードを示した。一方、与党国民の力の韓東勲(ハン・ドンフン)代表は13.3%に留まっている。この他、曺国革新党代表6.0%、洪準杓(ホン・ジュンピョ)大邱市長5.6%、呉世勲(オ・セフン)ソウル市長4.7%、李洛淵(イ・ナギョン)共に民主党前代表3.4%、元喜龍(ウォン・ヒリョン)前国土交通部長官2.7%の順となっている。
このままでいけば、尹錫悦大統領に引導を渡すのは与党ではなく野党による弾劾訴追となる可能性が高く、次期大統領も最大野党の代表の李在明で確定となりそうだ。ただ李在明も2021年の大統領選候補当時、自身の疑惑に関して虚偽の発言をしたとして、この11月15日に公職選挙法違反の罪で懲役1年、執行猶予2年の判決を受けている。仮に最高裁で結審する確定する前に大統領に就任しても、任期中に当選無効の刑が確定すれば、大統領職が失われる恐れもあるという。
尹錫悦の次の大統領についても、弾劾とろうそく集会がなくなることはなさそうだ。
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