米副大統領候補対決はハリス陣営の負け。ウォルズが頭のキレなさと議論経験の不足を露呈
Walz the Ultimate Winner?
それなのにバンスはトランプがオバマケアを「救った」と言い張ったのだ。「オバマケアが複雑な手続きと医療コストの重みでつぶれそうになったとき、ドナルド・トランプはそのままつぶすこともできたのに、超党派の合意を取り付け、アメリカ人が法外な金を払わずとも医療を受けられるようにした」と。
耳を疑うような珍説だ。
ウォルズはいくつか事実を整理したが、怒りを見せて反論することはしなかった。そして、バンスはウォルズに「個人に(保険加入を)義務付けることはいい考えだと思うのか」と質問し、形勢が逆転した。ウォルズは答えに窮しながら、「リスクプールを十分に広くして全員をカバーするという考え方は、保険が機能する唯一の方法だろう」と述べた。
ウォルズはバンスが話している間、相手の話を聞くわけでもなく、もっぱら関連する統計や準備したセリフを確認しているように見えた。
この数カ月、ウォルズよりはるかに多くの記者会見で質問に答えてきたバンスは、全てを聞いていた。ウォルズが「専門家」に耳を傾ける必要性に言及すると、バンスは「専門家」がいかに間違えてきたかをまくしたてた。
「ドナルド・トランプはこの数十年で初めて、そうした超党派のコンセンサスに対し、もうそんなことはしないと断言する知恵と勇気があった」
トランプがその時々に本能に従い行ってきた政権運営について、興味深い表現ではある。もっとも、米中西部のラストベルトが今回の大統領選のカギを握ることを考えれば、ふさわしいレトリックだ。
ウォルズにとって最悪の場面は、追い詰められて支離滅裂になったときだ。1989年の天安門事件の際に自分は香港にいたと昔から何度も語っていることについて質問されたウォルズは(実際はネブラスカ州にいた)、はぐらかすように冗長な回答をした。その後「言い間違えた」と認め、「民主化を求める抗議活動が行われていたときに、香港と中国にいた」と続けた。
これは記者会見などで厳しい質問に答えることを避けてきたハリス陣営の弱点が浮き彫りになった瞬間でもあった。
バンスの痛恨の「失言」
しかし、討論会の終盤にはウォルズも、バンスにとって最悪の場面をつくり出した。
2020年の選挙をトランプが盗もうとしたことについて質問されたバンスは、大きな誤解だと冷静に否定した。すると、ウォルズは自分たちの意見が「一致する」問題もあるかもしれないと述べた上で、「この点は意見が懸け離れている」と続けた。