最新記事
旧ソ連圏

西側と中ロの狭間で迷えるジョージア...10月議会選は「戦争か平和か」を選ぶ、「最後のチャンス」に?

THE WEST IS LOSING ANOTHER COUNTRY

2024年10月3日(木)16時08分
マシュー・トステビン(本誌シニアエディター)

トビリシ市内の反ロシアの落書き

現政権の思惑とは裏腹に国民の間で反ロシアの感情は根強い(7月17日、トビリシ市内の反ロシアの落書き) MATTHEW TOSTEVINーNEWSWEEK

困難な戦いを強いられる野党

もっとも、ジョージアは何十年も西側との関係深化に努めてきたのに、EU加盟で経済が飛躍的に成長することもなければ、NATO加盟でロシアの脅威に対抗できる集団防衛体制を保証されることもなかった。

しかも、ロシアのウクライナ侵攻で「いざというとき、西側は頼りになるのか」という疑念も生まれた。ロシアはウクライナ戦争の前哨戦として、2008年にジョージアの分離独立派にテコ入れするため一部地域に軍を差し向けた。以後、ジョージアの国土の5分の1近くを占める地域にロシア軍が居座り続けている。


「(カフカス地方における)西側の戦略的な競争力は低下している」と、ジョージア政治研究所のコールネリー・カカヒアは指摘する。「この地域ではロシアに加え、中国、トルコ、イランが(覇権を争って)いる」

カフカス地方が中ロなどの陣営に取り込まれたら、その影響ははるかに広い範囲に及ぶと、政治アナリストらは警告する。

「ジョージアがロシアの影響下に入れば、戦略的にも象徴的な意味合いでも、アメリカとNATO、西側にとって大きな地政学的痛手となる」と、大西洋協議会ユーラシアセンターのローラ・リンダーマン上級研究員は言う。

「ジョージアはユーラシアの内陸国とヨーロッパを結ぶ国で、カスピ海のエネルギー資源をヨーロッパに運ぶ経由地点に位置し、エネルギー資源の調達先の多角化を目指す西側の計画にも重要性を持つ」

ジョージアを失うことは「プーチンの勝利であり、NATOと西側の恥となる」と言うのだ。

ジョージアの現政権は建前上は今もEUとNATO加盟を掲げているが、西側との関係はここ数カ月で急速に悪化している。「外国からの影響に対する透明性(外国の影響)」法案をめぐりジョージア国内で大規模な抗議デモが起こったが、治安警察が武力で抑え付け、法案は成立。

こうした成り行きを重大視し、EUは7月、ジョージアの加盟手続きを停止し、ジョージア軍強化のための3000万ユーロの支援も凍結した。

米国防総省がこの夏、ジョージアと毎年実施している合同軍事演習「ノーブル・パートナー」を延期したことも、米政府の不快感の表れだろう。米政府はまた「民主主義の弱体化に責任があるか加担した」ジョージアの政治家へのビザ発給を制限した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中