プーチンと並び立つ「悪」ネタニヤフは、「除け者国家」イスラエルを国連演説で救えるか
Benjamin Netanyahu Set For Another U.N. Showdown
第78回国連総会で演説するネタニヤフ(2023年9月22日、ニューヨーク)REUTERS/Brendan McDermid
<演説で国内外の世論を動かすのが得意なネタニヤフだが、ガザ侵攻とレバノン攻撃で容赦なく民間人の命を奪い、ICCが戦争犯罪の疑いで逮捕状を請求している今回、それでもスタンディングオベーションを期待できるのか>
国連総会での演説に意欲を燃やすイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イスラエル国防軍(IDF)が北隣のレバノンに2006年の侵攻以来で最も激しい攻撃を始めたため、訪米スケジュールを繰り延べざるを得なかった。
それでもニューヨーク行きを断念する選択肢は眼中にないらしい。ネタニヤフとパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は予定どおり現地時間の9月26日に国連総会で一般討論演説を行うことになりそうだ。
ネタニヤフはちょうど1年前、国連総会の演説で「新しい中東」の幕開けは近いと語り、独自の和平構想を得意げに披露した。しかし、再びその檜舞台に立とうという今、1年前には想像もつかなかったほど中東情勢は悪化している。
イスラエル軍がガザ侵攻を開始してからもうすぐ1年の節目を迎えるが、停戦の見通しは全く立っていない。一方でイスラエルは、イランの後ろ盾を得たレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラにも猛攻を加え、広範な地域紛争が今にも火を噴きかねない状況になっている。
ネタニヤフは憎悪と分断を煽って政権を維持してきた。敵の「殲滅」を目指すその好戦的な姿勢は、国際社会でイスラエルの孤立を招き、国内外で激しい批判にさらされている。
国際刑事裁判所(ICC)の主任検察官は、戦争犯罪の疑いでネタニヤフの逮捕状を請求している。逮捕状が発布されれば、ネタニヤフはロシアのウラジーミル・プーチン大統領やスーダンのオマル・アル・バシル前大統領と同様、ICCに逮捕される身となり、国外への移動を制限されることになる。
アナログ式のプレゼン手法
「ネタニヤフは今回の国連総会では、ペルソナ・ノン・グラータ(「招かれざる客」を意味する外交用語)扱いされることになる」と、元イスラエル外務省高官で、ネタニヤフ批判派のアロン・リエルは言う。
ネタニヤフは演説巧者で鳴らす。国際舞台で拍手喝采を浴びたおかげで、国内でも見直され、支持率を上げたことがこれまでにも何度かあり、この手法に味を占めてきた。
今年7月には米連邦議会の上下両院合同会議で演説し、スタンディングオベーションを受けた。イスラエル国内では批判も聞かれたが、本人は得意満面だ。
「ネタニヤフは国連での演説などを強みとしている」と、ジョージタウン大学とテルアビブ大学の国際関係学の教授であるヨシ・シェインは言う。「国外で演説をするときはたいがい、国際社会だけでなく、国内世論受けも狙って、原稿を練りに練る」
過去の国連演説では、ネタニヤフは劇的な効果を狙って、「ここぞ」という時に図を見せ、聴衆を沸かせて、メディアに大きく取り上げられてきた。2012年にはイランの核開発の危険性を爆弾にたとえた分かりやすい図を見せ、2009年にはナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)計画を記した書類のコピーを提示し、「ホロコーストはなかった」と主張する反ユダヤ主義をやり込めた。