最新記事
中国

「中国の骨董市は宝の山だった」留学生増やすと言いながら、中国研究にも検閲強化する習政権

2024年9月22日(日)18時02分
中国の骨董市

9月13日、 北京最大の骨董市で知られる地区、潘家園。毛沢東の彫像やポスター、古書が並ぶ中で目を引くのが、国家機密や「反動的宣伝」を含む出版物を販売しないよう警告する掲示だ。潘家園で8月撮影(2024年 ロイター/Florence Lo)

北京最大の骨董市で知られる地区、潘家園。毛沢東の彫像やポスター、古書が並ぶ中で目を引くのが、国家機密や「反動的宣伝」を含む出版物を販売しないよう警告する掲示だ。

違法な販売を目撃した市民が当局に通報できるように、直通電話番号が記されている掲示もある。

かつて、中国の骨董市やのみの市は歴史研究者にとって宝の山だった。だが現在、こうした警告に象徴される恐怖が、中国国内の研究活動を萎縮させている。

中国政府は学術交流の促進を望んでいる。習近平国家主席は昨年11月、今後5年間で5万人の米国人留学生を招くと発表した。現在の約800人からすれば飛躍的な増加となる。

こうした交流がどれだけ研究の活発化につながるかはまったくの未知数だ。だが、恐らく中国に最も強い関心をもっているはずの現代中国史の研究者は、検閲の強化により、この国の歴史に関する独立性のある研究の場が消滅しつつあると気を揉んでいる。

特に焦点となっているのが、1966年から67年にかけての文化大革命に関する史料だ。毛沢東主席が階級闘争を宣言し、中国を混乱と暴力の渦に巻き込んだ、中国共産党にとって歴史的に最も触れられたくない時期だ。

「のみの市をのぞけば簡単に宝の山に巡りあえた時代はとっくに終わってしまった」と語るのは、フライブルク大学で現代中国史を研究するダニエル・リーズ氏。

「(史料探しは)とにかく複雑、困難で危険も伴うため、基本的には敬遠されている」とリーズ氏は言い、国外の若手研究者は他国にあるコレクションに頼りがちになっていると語る。

1949年の中華人民共和国誕生以来、中国共産党は書籍やメディア、インターネットを含むあらゆる出版物を統制してきたが、検閲の厳しさは時期によって波があった。

だが習近平時代に入って、検閲は強化される一方だ。2012年に権力を掌握して以来、習氏は、政府の公式見解と異なる歴史解釈を指す「歴史的虚無主義」がソ連の崩壊を引き起こしたと主張してきた。

近年では国家安全保障やスパイ防止に関する新法が次々に制定され、研究者たちは中国の非公式な史料から引用することにこれまで以上に慎重になっている。

近現代中国史の研究者のなかには、中国政府公式の歴史認識に疑問をしたり、あるいはセンシティブな主題に取り組んだ研究を発表したことで、中国への入国ビザ発給を拒否されたという例もあるという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中