最新記事
中国

「中国の骨董市は宝の山だった」留学生増やすと言いながら、中国研究にも検閲強化する習政権

2024年9月22日(日)18時02分

ジョージタウン大学の歴史研究者ジェームズ・ミルワード氏は、2004年刊行の「Xinjiang: China's Muslim Borderland(新疆:中国のムスリム国境地帯)」に寄稿した後、数回にわたってビザ発給を却下されたという。その後は短期滞在ビザが数回発給されたが、手続きには長い時間がかかったという。

政治的な環境も、歴史研究者の研究テーマの選び方に影響を与えている。米国のある歴史研究者は、中国渡航の可能性を残しておくために当たり障りのない研究テーマを選んでいると語る。

中国教育省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。また中国外務省は、当該状況については認識していないとしている。

<骨董市で重要史料の発見も>

前出のリーズ氏をはじめとする海外の歴史研究者は、かつて中国国内ののみの市や骨董市で検挙された知識人の訴訟資料や中国共産党の秘密文書を見つけたことがあると語る。

こうした史料は、死亡した当局者の遺族から寄付されるか、国営セクターで大規模な人員削減が行われた1990年代に閉鎖された政府系オフィスに近いリサイクルセンターから、書店が苦心の末に救出したものが多い。

だが中国政府は2008年以降、のみの市など古書や史料が流通する場所への取り締まりを進めてきた。国内メディアの報道や、ロイターの取材に応じた収集家や海外の研究者4人によれば、購入者は逮捕、販売者には罰金刑が科され、古書販売サイトからは政治問題に触れるタイトルが消えたという。

たとえば2019年には、古書店で日中戦争に関する1930年代の書籍を購入した日本人研究者がスパイ容疑で2カ月間拘束された。

中国メディアの報道によれば、その2年後、香港と台湾で出版された非合法の出版物を中国最大手の古書販売サイト「孔夫子」で販売した容疑で検挙された愛好家が、古物商の資格を持っていなかったとして28万元(約560万円)の罰金を命じられた。

また国営メディアによると、リサイクルセンターの職員2人が今年、軍の機密文書を売却した容疑で処分を受けたという。

文化大革命期の史料に興味があるという北京の収集家は匿名を条件に取材に応じ、最近は購入者が微信(ウィーチャット)経由で販売業者と個人的な関係を築いて購入していると語った。

また歴史研究者の指摘によれば、2010年以降、地方政府が保管する大半の公文書へのアクセスが制限され、文書のデジタル化に伴い検閲当局による「黒塗り」がひどくなっているという。

国外で活動する歴史研究者らは、現在の政治環境のもとで中国本土にいる協力者ができることといえば、後世のために史料を保存することだけだと説明する。ただし、悲観的な見方ばかりではない。

中国の大学による20世紀の史料のコレクションを精力的に研究しているダートマス大学のイー・ルー助教(歴史学)は、「習近平体制のもとでも、中国の研究者たちは抜け道を探し、中華人民共和国の歴史の把握と解釈を広げつつある」と語る。「すべてが失われたわけではない」

(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250401issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月1日号(3月25日発売)は「まだ世界が知らない 小さなSDGs」特集。トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 5
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 8
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 9
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 10
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中