ミャンマー内戦に巻き込まれ、強制徴兵までされるロヒンギャの惨状

AN OVERLOOKED TRAGEDY

2024年9月11日(水)17時17分
増保千尋(ジャーナリスト)

newsweekjp_20240909093306.jpg

RSOの司令官(32)。バングラデシュ当局から国境間の移動の自由を保障されているという COURTESY OF RSO

中西准教授によれば、少数民族間の潜在的な対立を利用することで、軍による支配を固定化するこうした戦略は、ミャンマーで繰り返し用いられてきたという。ラカイン州は国内の最貧困地域の1つで、ラカイン人もまた長年、軍の迫害や搾取に苦しんできた。現在のラカイン州で起きているロヒンギャとラカイン人の抗争は既得権益を維持したい権力者に政治利用され、その犠牲となってきた「弱者同士の争い」でもあると、中西准教授は指摘する。

強制徴兵には、バングラデシュ当局の関与も示唆される。地元ジャーナリストは、「バングラデシュ当局は難民キャンプの治安悪化を把握しながら、意図的に野放しにしている。もともとバングラデシュはロヒンギャの帰還の道筋が見えないことにじれていた。徴兵でロヒンギャがミャンマーに連れて行かれるのを、止める理由はないのだろう」と語る。バングラデシュとミャンマーの国境付近に潜伏するRSOの司令官(32)に話を聞くと、彼もまたバングラデシュ当局から「支援を受けている」と認めた。


17年の危機の発生当初から、ロヒンギャ難民キャンプを調査する立教大学の日下部尚徳准教授(国際協力論)は、「バングラデシュ警察は、昨年RSOの一部を抱き込んでARSAの幹部を摘発する作戦を行っており、現場レベルで間接的に強制徴兵に関与している可能性が指摘されている。RSOに比べ、国外とのつながりが強いARSAを当局は警戒している。キャンプがイスラム過激派の根城になることを懸念しているのだろう」と分析する。

ラカイン州の治安が悪化の一途をたどるなか、ロヒンギャ難民がミャンマーに帰還する目途は立たない。キャンプで命の危険にさらされ、就労や教育の機会も制限されている難民たちからは、未来への希望を持ちづらいという声が聞かれる。17年以前に避難したロヒンギャを含めると、100万人の難民を7年以上受け入れ続けるバングラデシュ側も疲弊しており、市民の間では反ロヒンギャ感情が高まっているという。

8月にハシナ前首相が辞任した後、暫定政権の首席顧問を務めるムハマド・ユヌスはロヒンギャ難民への変わらぬ支援を表明しているものの、世界中で戦争や人道危機が頻発する状況下で、国際社会からの資金提供は大幅に減少している。また、7~8月に起きた反政府デモの際、警察署などが襲われ武器が流出し、その一部がキャンプに流れ込んだという情報もあり、さらなる治安悪化が懸念される。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米GM、インディアナ州工場で生産拡大 トランプ大統

ビジネス

アングル:日本の不動産は「まだ安い」、脱ゼロインフ

ビジネス

米モルガンSが日本特化型不動産ファンド、1000億

ワールド

中国格付け、公的債務急増見込みで「A」に引き下げ=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 2
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 3
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のために持ち込んだ?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 6
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中