「それが中国流のやり方だ」北極圏でひそかに進む「軍民両用」研究の実態...ロシアとの接近、核持ち込みの懸念も
CHINA’S POLAR AMBITIONS
米政府はこうした状況を、指をくわえて眺めているわけではない。ホワイトハウスは22年にまとめた「北極圏国家戦略」で、中国進出への懸念を明記している。23年には米国務省が、10年近く閉鎖されていたトロムソの外交拠点を復活させた。
今年1月には米国土安全保障省が4600万ドルを投じて、アラスカ大学アンカレジ校に北極圏イダルゴセンター(ADAC)を設置。3月には、同省のディミトリ・クスネゾフ科学技術担当次官がカナダ政府の科学顧問と共にスバールパルを訪問し、最新情報を交換した。
警戒されるロシアとの協力
それでもアメリカはこの領域で後れを取っている。砕氷船は3隻しか保有しておらず、そのうち1隻は修繕中だ。これに対して中国は、6月に3隻目となる砕氷船「極地」の進水を発表し、来年には4隻目が完成するという。ロシアは数十隻の砕氷船を保有し、一部は原子力船だ。
ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシアと中国の接近が目につくようになったが、それが北極圏にも及ぶようになることを、アメリカや同盟国は懸念している。
アラスカ大学フェアバンクス校北極圏安全保障・レジリエンスセンター(CASR)のトロイ・ブファード所長は、中国は圧力を強めており、緊急に対策を講じる必要があると語る。「今秋の米大統領選後も変わらない長期的なビジョンを持って、包括的で大規模な国家戦略を緊急に立案するべきだ」
米国防総省は7月、最新の北極圏戦略を発表し、中国に対抗して北極圏での軍事的プレゼンスと情報収集能力、同盟国との協力を強化する必要性を訴えた。
これについて中国外務省の毛寧(マオ・ニン)副報道局長は、米国防総省は中国の役割(毛に言わせれば「ウィンウィンと持続可能性」に基づく)をゆがめていると批判した。
中国とロシアはスバールバルでも協力する可能性がある。ロシア政府高官は昨年、かつて炭鉱の町として栄えたが現在はゴーストタウンとなっているピラミーデンに、BRICS5カ国の共同研究センターを設置することを提案した。
ニーオルスンから100キロほど北にあるこの町は、かつてソ連領だったことがある。
中国はこの計画に参加するのか。PRICは本誌の質問に回答していない。「自分たちの手の内を見せるつもりはないのだろう」と、ノルウェー北極大学のランテインは苦々しげに語った。