「それが中国流のやり方だ」北極圏でひそかに進む「軍民両用」研究の実態...ロシアとの接近、核持ち込みの懸念も

CHINA’S POLAR AMBITIONS

2024年9月5日(木)17時17分
ディディ・キルステン・タトロウ(本誌国際問題・調査報道担当)

アラスカで訓練を行う米兵たち

アラスカの極寒の地で訓練を行う米兵たち ARMY PFC. BRANDON VASQUEZ/U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE

「近北極圏国家」は詭弁か

19年、マイク・ポンペオ米国務長官(当時)は、中国が北極圏進出をもくろんでいることを指摘し、21年には、北極圏にない中国が「近北極圏国家」だと主張するのは「共産主義者の作り話だ」だとツイッター(現X)に投稿した。

「中国は北極圏に強力な軍事的利益を見いだしている」と、カンタベリー大学(ニュージーランド)のアンマリー・ブレイディ教授(政治学)は語る。


「核兵器を搭載した原子力潜水艦を送り込むことも考えている。それが実現すれば、中国は(核攻撃を受けても、核によって反撃できる)第二撃能力を獲得することになり、核抑止の構図を一変するだろう」

中国は既に、北極圏への軍事的な圧力を強めている。今年7月には、中国海軍の艦艇4隻がアラスカ沖のアメリカの領海に接近。さらにその後、ロシアと中国の戦略爆撃機がアラスカ沖のアメリカのADIZ(防空識別圏)内を飛行した(ただし領空侵犯はなかったとされる)。

もちろん経済的利益も視野に入っている。中国は、50年までに北極海の海氷が、商業船の航行が可能なレベルまで溶けるとみている。そうなれば現在の3分の2程度の航行距離でヨーロッパに到達できる。

中国国有海運大手の中国遠洋運輸は、既にロシアの砕氷船と北極圏航路を航行し始めている。今年6月には、ロシア国営原子力企業のロスアトムと中国の洋浦良恩海運有限公司が、北極海航路を利用した通年のコンテナ輸送契約を結んだ。

中国はノルウェーなどと同じように、北極圏の海底資源にも大きな魅力を感じている。いずれの国の管轄権も及ばない深海底の資源開発を管理する国際海底機関(ISA)は、早ければ25年にも北極圏の深海底資源の採掘許可を出し始める可能性がある。

中国は北極圏での長期的な情報収集活動にも意欲を見せていると、スバールバルの知事特別顧問を務めるヨン・フィッチェ・ホフマンは言う。「中国は長期的なスパンで活動しており、今後どのように影響力を拡大するつもりか分からない。ただ、とてつもない情報収集能力がある」

ホフマンによると、中国関係者(国と直接結び付いているとは言い切れないことが多い)は、スバールバル諸島で最大の町であるロングイェールビーンで、不動産を購入したり住宅建設を提案したりして、中国の存在感を高めようとしている。

だが、ノルウェー政府がスバールバル諸島の重要インフラの管理を強化し、外国人への売却を制限する政策を取ったため、この領域での中国の試みは失敗に終わっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中