「それが中国流のやり方だ」北極圏でひそかに進む「軍民両用」研究の実態...ロシアとの接近、核持ち込みの懸念も

CHINA’S POLAR AMBITIONS

2024年9月5日(木)17時17分
ディディ・キルステン・タトロウ(本誌国際問題・調査報道担当)

黄河基地の付近でオーロラを撮影する中国人研究者

黄河基地の付近でオーロラを撮影する中国人研究者 XINHUA/AFLO

安全保障関連の公開情報の収集・分析サイト「データアビス」(米オハイオ州)や本誌の調査によると、CRIRPは人民解放軍の13の部隊と協力している。

例えば海軍92941部隊とは「海洋環境における死角領域でのレーダー探知」について、中央軍事委員会連合参謀部61191部隊とは「宇宙目標監視レーダー」について協力した。


RiSのサイトに掲載された研究内容によると、CRIRPは宇宙天気、オーロラ、電子を含む大気圏と電離圏の観測を行っている。いずれも攻撃目標の捕捉・追尾・特定に重要なデータだと、専門家は言う。

ある中国人研究者が匿名を条件に本誌に語ったところでは、黄河基地に設置した機器を使って中国国内の研究チームが分析を行う「リモート研究」も行われているという。

「気象観測から原油や天然ガスのボーリング調査、レーダーの秘密研究まで、あらゆることをやっているというのが私の評価だ」と、データアビス(米国防総省の資金援助を受けている)の創設者LJ・イーズは言う。

「中国人民解放軍に貢献していない環境・大気研究もあるが、問題は軍民両用研究だ」

「それが中国流のやり方だ」

スバールバル諸島での研究が軍事利用される可能性を示唆する状況証拠は既にある。CRIRPのもう1つの共同研究パートナーである解放軍理工大学の楊昇高(ヤン・ションカオ)は、スバールバルと南極基地のデータを使ってミサイル誘導技術の研究を行っている。

「電離圏の電場に変動が生じてもICBM(大陸間弾道ミサイル)が意図した弾道を確実に保持できる正確な誘導」を行うために、レーダー信号に対する「電離圏の擾乱の影響をよりよく予測し、軽減することは可能だ」と、楊は論文で述べている。

本誌の取材に回答したノルウェーの専門家は、現状をあまり懸念していないようだ。

「CRIRPがCETC傘下の研究機関であるという調査結果を疑う理由はないが、スバールバル諸島の研究主体としてRiSに登録されているのはあくまでCRIRPだ」と、ノルウェー極地研究所のガイド・ゴトスは言う。

「彼らはどこをどう見ても、合法的な研究機関だ」と語るゴトスは、スバールバルにレーダーを設置している別の研究機関、欧州非干渉散乱(EISCAT)科学協会にもCRIRPが関与していると指摘した。

このレーダーはノルウェー、スウェーデン、フィンランドの観測所ネットワークに接続し、CETC傘下の別の研究機関がEISCAT_3Dという巨大な新型レーダーのために3万個のアンテナを供給している。

スウェーデン当局は安全保障上の理由から、EISCAT科学協会を北欧諸国だけの組織に再編成する作業に着手した。この新組織にCRIRPは加わらない見込みだ。

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