派閥解消後の自民党総裁選、勝者が直面する「有事」の現実とは?
JAPAN’S BIG POLITICAL REALIGNMENT
まず自民党にとっての急務は、責任感を持って国家を導く能力に関して国民の信頼を取り戻すことにある。岸田の不出馬表明で党の支持率が跳ね上がったとはいえ、国民の信頼が本当に回復したとは考えられない。政治資金をめぐる不正が白日の下にさらされ、自民党議員らと旧統一教会の親密な関係も追及されている。
そんな過去との決別をもたらす指導者を選ぶチャンスが今回の総裁選だ。石破茂や河野太郎のように、確たる信念を持つ経験豊富な改革派で国民とのコミュニケーションに独特な能力を持つ人材か。あるいは小林鷹之や小泉進次郎のように、若い世代のアバターとして新しい思考や政治スタイルを体現する人材か。
差し当たり必要とされているのは、後者の新鮮さかもしれない。7月の東京都知事選では、広島県安芸高田市の前市長・石丸伸二が得票数2位につけ、「石丸ショック」と呼ばれた。日本の政治には何か新しくて生きのいい本物が求められている──そんなメッセージが、既成政党にはしっかり届いたはずだ。
「一極集中」安倍政治の反動
だが一方で、自民党は有能な党首を選ばねばならない。党内の深い亀裂を修復し、派閥に頼らない統治モデルを見つけなければならない。派閥に頼らず必要なだけの人材を集め、教育し、立派な議員候補に育てる必要があるし、資金を調達・分配し、党と政府のポストを振り分け、党の将来について戦略的な決定を下す能力も求められる。
もちろん、こうした機能を総裁と幹事長に集中させたいという誘惑はある。これは、日本の政治システムにおける権力の中央集権化という長期的なトレンドと一致している。
だが権力の一極集中は反発を招きかねない。実際、総裁選に10人以上の候補者が乱立する事態を招いた理由の1つは、故・安倍晋三の強力な党内支配によって頭を押さえ付けられてきた他派閥の議員たちの不満が燃え広がったことにある。
だから次に党を率いるのが誰であれ、党中枢の権限を維持しつつも野心的な若手を積極的に登用し、彼らの意見を聞き、意思決定に参加していると感じさせる必要がある。
今回の総裁選は、主要な政策課題に関して党内に深刻な亀裂があることも明らかにした。自民党内には、日本が直面する最重要課題のいくつかについて見解を異にする議員がたくさんいる。次期総裁には、こうした党をまとめる手腕が求められる。