最新記事
中東

革命防衛隊の「大失態」...ハマス指導者の暗殺という赤っ恥で、イランは本気で「中東大戦」に突き進む?

A COLOSSAL INTELLIGENCE FAILURE

2024年8月23日(金)18時15分
カスラ・アーラビ、ジェイソン・ブロツキー(いずれも米NPO「反核イラン連合」理事)

newsweekjp_20240822030752.jpg

テヘラン郊外でイラク・イラン戦争開戦記念日を記念する軍事パレードで行進するイラン革命防衛隊 AP/AFLO

また、イラン政府高官や訪問中の外国要人を警護する革命防衛隊アンサール・アル・マフディ保護部隊の将来も問題となっている。この部隊にも外国のスパイが潜入している疑いがあり、何度も首のすげ替えが行われている。19年には司令官のアリ・ナシリが忠誠心を疑われて解任された。後任にはファソラ・ジョメイリ准将が就いたが、その後もハニヤ暗殺などの失態が繰り返されている。

このような欠陥が露呈した今、革命防衛隊としては何とかして失地を回復し、面目を保ちたいところだ。しかしハニヤ暗殺という衝撃の事態を受け、ハメネイはますます治安・諜報部門の幹部刷新に力を入れることだろう。なにしろ今は、自分の後継者を決めなければならない大事な時期だ。


過去5年間、ハメネイはエネルギーの大半を、円滑で秩序ある世代交代の準備につぎ込んできた。最高指導者の死は政権を不安定にさせる可能性があるから、その前に革命防衛隊をしっかり鍛え直したい。それがハメネイの願いだ。

去る5月にイブラヒム・ライシ大統領(当時)が不慮の事故で死亡したことは、ハメネイにとって大きな痛手だった。2人しかいない後継候補の1人がライシだったからだ。しかもそこへ、国の治安・諜報機関が穴だらけであることを示す事態が起きた。こうなると、高齢のハメネイにとっては残る1人の後継候補(自分の息子のモジタバ師)の安全確保が最優先の課題となる。彼が殺されたら後継選びは振り出しに戻ることになり、イスラム共和国体制の存続も危ぶまれる事態となる。

メンツをつぶされたイランは黙っていないはずだ。国際社会には、どうせ型どおりの報復攻撃だろうとの見方が多いが、そうとは限らない。ハメネイや革命防衛隊には別の懸念がある。とりわけ革命防衛隊は、何としても外国からの潜入工作員を一掃し、イラン国内での破壊工作を放棄させるに足るダメージをイスラエルに与えたいと思っている。

ミサイルやドローンによる攻撃という在来型の報復にとどまらず、在外イスラエル人やユダヤ人に対する無差別テロの可能性も排除できない。在来型の報復攻撃でイスラエルの防空網を突破できないことはイラン側も承知している。しかし非武装の在外イスラエル人やユダヤ人に対するテロ攻撃を強化すれば、さすがにイスラエルもイラン国内での破壊工作を自重するのではないか。

そうは言っても、このところ革命防衛隊によるイスラエル要人暗殺計画は失敗続きだ。諜報部門を率いるカゼミとしては、ここで何としても点数を稼ぎたいところだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中