最新記事
エジプト

シシ政権下で初の外相人事、エジプトの外交政策は変わるのか?

2024年8月21日(水)17時20分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学国際学部教授)

しかし、筆者は「アブデルアーティ氏に変わってもエジプト外交の路線は変わらない」と考えており、「エジプトには長年にわたる外交政策があり、人が変わっても変わらない不変のものがある」と考える。

これに関連し、現在、アトランティック・カウンシル・インスティテュートの上級研究員である元クネセット(イスラエル議会)のクセニア・スヴェトロワ氏は、イスラエルの新聞『マーリブ』に「 新大臣は欧州連合(EU)の大使を務めた経験もあり、10年以上前には在イスラエル・エジプト大使館にも勤務していた」とした上で、「時間はものをいうというが、新大臣の流儀がエジプトの外交政策に変化をもたらすかどうかは今後の動向を注視したい。ただ、一般的に外相は大統領が決めた方針を実行するものだ」と語った。

しかし、どの閣僚にも流儀というものがあるはずだ。アブデルアーティ新外相は経済的視点のある外交政策に重きを置きそうな傾向も強い。

2025年8月20日から22日まで横浜で第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が開催される予定である。日本にとってアフリカ諸国と関係を深めるための肝入りの取り組みで、1993年にアフリカ開発会議(TICAD)を立ち上げて以降、約30年間にわたって、アフリカ自らが主導する開発を後押ししていくとの精神で取り組んできている。この準備のためのTICAD閣僚会合が、今年8月24日・25日に東京において開催される。

アブデルアーティ新外相も日本閣僚と接触する初の公式な機会として出席する予定だ。欧州との経済関係強化の豊富な経験のあるアブデルアーティ新外相とこの経済的視点のある外交手法が日本のアフリカ諸国との関係強化の後押しにつながれば、エジプトと日本の協力に新たな可能性が生まれるだろう。

アラブの外交の重鎮であるエジプト。そのエジプトの外交の実行役のトップとなったアブデルアーティ新外相にとって、エジプトの外交課題は山積しているが、やはり何といっても一番注目されるのはガザ地区での停戦問題、昨年10月から続いている戦争を止めるための交渉になるだろう。この他、「エチオピアのルネッサンス・ダムによる水資源への影響やスーダン内戦、リビア、イエメン、シリアの紛争といった現在進行中の問題だけでなく、欧州連合(EU)、そして、勤務経験のある日本との関係にももちろん注目が集まるだろう。

almomen-shot.jpg【執筆者】アルモーメン・アブドーラ
エジプト・カイロ生まれ。東海大学国際学部教授。日本研究家。2001年、学習院大学文学部日本語日本文学科卒業。同大学大学院人文科学研究科で、日本語とアラビア語の対照言語学を研究、日本語日本文学博士号を取得。02~03年に「NHK アラビア語ラジオ講座」にアシスタント講師として、03~08年に「NHKテレビでアラビア語」に講師としてレギュラー出演していた。現在はNHK・BS放送アルジャジーラニュースの放送通訳のほか、天皇・皇后両陛下やアラブ諸国首脳、パレスチナ自治政府アッバス議長などの通訳を務める。元サウジアラビア王国大使館文化部スーパーバイザー。近著に「地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人」 (小学館)、「日本語とアラビア語の慣用的表現の対照研究: 比喩的思考と意味理解を中心に」(国書刊行会」などがある。

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中