日本外交にはもう1人の岸田文雄が必要だ
岸田首相は突然の記者会見で総裁選不出馬の意向を表明した PHILIP FONGーPOOLーREUTERS
<日本国民の関心は「政治とカネ」の問題に集中するあまり、岸田政権の外交的成果から目を背けてきたように見える>
日本の岸田文雄首相は8月14日、9月の自民党総裁選への不出馬を表明。事実上、首相の座も降りることになった。
日本の歴代首相で在任期間約9年の最長記録を作った安倍晋三が2020年に退任すると、次の菅義偉はわずか384日で辞任。そして今、岸田政権も3年で幕を下ろそうとしている。このような頻繁な権力の交代は安定した、または強力な政策とは相いれない。
岸田はこの決断について、政治に対する国民の信頼の重要性を強調。自民党総裁として政治資金スキャンダルの責任を取る必要性を感じたと語った。政治資金集めのパーティー収入約9億7000万円が報告書に不記載だった問題では、複数の議員や議員側近の起訴につながった。
こうしたことが原因で、岸田内閣の支持率は2024年に入って20%台またはそれ以下に低迷していた。岸田は閣僚の交代に踏み切り、党内派閥を解散させる意向を表明したが、危機打開どころか与党内で激しい恨みを買う結果になった。この二重の打撃により岸田は新しい「総選挙の顔」に道を譲らざるを得なくなった。
日本国民の関心はこの嘆かわしい、だが一見軽微な(岸田自身は関与していない)金銭スキャンダルに集中している。ただ、そうすることで日本が直面する難局や、岸田政権の外交的成果から目を背けているようにも見える。
安倍政権で戦後最も長く専任として日本の外相を務めた岸田は、常に二歩進んで一歩下がるという状態だった韓国との関係改善に取り組んだ。ウクライナに対しては珍しく支援の先頭に立ち、地元広島開催の主要国首脳会議(サミット)では平和への支持で参加国を結束させることに成功。オーストラリアやイギリスなど、パートナーとの関係強化でも成果を出した。
だが、おそらく最も重要なのは米議会での演説だろう。岸田は世界におけるアメリカのリーダーシップ、さらには国際社会の平和と安定が脅威に直面しているとの懸念を表明した。日本の基準からすれば大胆な直言だが、この重要なメッセージを聴衆に不快感を与えることなく、率直に受け入れられる形で伝えることができたのは岸田の外交手腕があればこそだった。
岸田は複数回の訪米成功を通じて、日本外交を単なる儀礼以上の意味あるものに変えた。第2次大戦後、アメリカは日本の唯一の同盟国だったが、日本の対米姿勢は常に従属的だった。だが岸田政権下の両国関係は、日本が友人としてアメリカに苦言を呈し、危険な道を選ぶことを思いとどまらせようとするものへと進化した。