最新記事
日本政治

日本外交にはもう1人の岸田文雄が必要だ

2024年8月19日(月)12時24分
ユカリ・イーストン(南カリフォルニア大学東アジアセンター)
総裁選不出馬の意向を表明した岸田首相

岸田首相は突然の記者会見で総裁選不出馬の意向を表明した PHILIP FONGーPOOLーREUTERS

<日本国民の関心は「政治とカネ」の問題に集中するあまり、岸田政権の外交的成果から目を背けてきたように見える>

日本の岸田文雄首相は8月14日、9月の自民党総裁選への不出馬を表明。事実上、首相の座も降りることになった。

日本の歴代首相で在任期間約9年の最長記録を作った安倍晋三が2020年に退任すると、次の菅義偉はわずか384日で辞任。そして今、岸田政権も3年で幕を下ろそうとしている。このような頻繁な権力の交代は安定した、または強力な政策とは相いれない。


岸田はこの決断について、政治に対する国民の信頼の重要性を強調。自民党総裁として政治資金スキャンダルの責任を取る必要性を感じたと語った。政治資金集めのパーティー収入約9億7000万円が報告書に不記載だった問題では、複数の議員や議員側近の起訴につながった。

こうしたことが原因で、岸田内閣の支持率は2024年に入って20%台またはそれ以下に低迷していた。岸田は閣僚の交代に踏み切り、党内派閥を解散させる意向を表明したが、危機打開どころか与党内で激しい恨みを買う結果になった。この二重の打撃により岸田は新しい「総選挙の顔」に道を譲らざるを得なくなった。

日本国民の関心はこの嘆かわしい、だが一見軽微な(岸田自身は関与していない)金銭スキャンダルに集中している。ただ、そうすることで日本が直面する難局や、岸田政権の外交的成果から目を背けているようにも見える。

安倍政権で戦後最も長く専任として日本の外相を務めた岸田は、常に二歩進んで一歩下がるという状態だった韓国との関係改善に取り組んだ。ウクライナに対しては珍しく支援の先頭に立ち、地元広島開催の主要国首脳会議(サミット)では平和への支持で参加国を結束させることに成功。オーストラリアやイギリスなど、パートナーとの関係強化でも成果を出した。

だが、おそらく最も重要なのは米議会での演説だろう。岸田は世界におけるアメリカのリーダーシップ、さらには国際社会の平和と安定が脅威に直面しているとの懸念を表明した。日本の基準からすれば大胆な直言だが、この重要なメッセージを聴衆に不快感を与えることなく、率直に受け入れられる形で伝えることができたのは岸田の外交手腕があればこそだった。

岸田は複数回の訪米成功を通じて、日本外交を単なる儀礼以上の意味あるものに変えた。第2次大戦後、アメリカは日本の唯一の同盟国だったが、日本の対米姿勢は常に従属的だった。だが岸田政権下の両国関係は、日本が友人としてアメリカに苦言を呈し、危険な道を選ぶことを思いとどまらせようとするものへと進化した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中