最新記事
オリンピック

「テロリズム劇場」フランスに与える心理的打撃と五輪が標的にされる理由

The Threat Against the Paris Games

2024年7月30日(火)15時00分
トーレ・ハミング(英過激化研究国際センター研究員)、コリン・クラーク(米スーファン・センター上級研究員)

newsweekjp_20240730031745.jpg

パリ同時テロの標的となったバタクラン劇場で犠牲者に花を手向ける(2015年11月) ABACA/AFLO

IS-Kが再び脅威に

ドイツの情報機関である連邦憲法擁護庁は今年のサッカー欧州選手権が開幕する前に、テロの警戒度はここ数年で最も高まっているとしていた。

この見解は、攻撃計画を示す確実な情報に基づいていたとみられる。欧州選手権に先立つ数カ月、ドイツではISや、特にアフガニスタンとパキスタンを拠点とする「ISホラサン州」(IS-K)とつながりがある数多くのテロ計画が阻止されていた。

開幕の1週間前には、欧州選手権を狙った攻撃を実行しようとした疑いで、ドイツとモロッコの国籍を持つ23歳の男がケルン・ボン空港で逮捕された。男はかつてISに送金をしており、試合会場の警備員に応募してもいた。


ジハード(イスラム聖戦)を動機とするテロは19〜22年に全体として減少したが、筆者らの調査によればIS-Kは再び大きな脅威となっている。

この組織の公式メディア機関アルアザイムは、オリンピックなど西側諸国で開催されるスポーツ大会を狙うと何度か予告している。

ISもIS-Kも最近、フランスを標的にしている。22年11月にはテロ攻撃を計画したとして東部の都市ストラスブールで7人が逮捕され、今年4〜6月だけでも3件の計画が阻止された。

これらの計画の標的がオリンピックに関連していたかどうかは不明だが、少なくとも16歳の容疑者1人がSNSにオリンピックを攻撃したいと投稿していたことが分かっている。

フランス当局は3月、差し迫った攻撃の情報に基づいてテロ警戒レベルを最高度に引き上げた。フランスの各当局は諸外国の支援を受けつつ最大限の警戒態勢を敷き、対ドローンシステムや最新鋭の防空システムなどの先進技術も導入して大会に備えてきた。

オリンピック開幕まで3週間を切った7月6日には、フランス当局がIS-Kのメンバーとみられる数人を逮捕したと発表。オリンピックを狙った自爆テロを計画した容疑だった。さらに13日には、テロを計画したとして国内各地で未成年者が計4人、成人が1人逮捕されたと報じられた。

警備保障会社レコーデッド・フューチャーは最近の報告書で、オリンピックに対する最も深刻な脅威はイスラム系過激派だと指摘。「ヨーロッパにいるISやアルカイダの支持者がオリンピックへのテロ攻撃を計画しているのはほぼ確実だ」と結論付けた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍のガザ派遣にコミットせず 「所有」

ワールド

トランプ氏「誰もが気に入る」、波紋広がる「中東のリ

ビジネス

ECB政策金利、いずれ2%に到達する必要=ポルトガ

ビジネス

米24年12月貿易赤字、984億ドルに拡大 輸入額
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 7
    【USAID】トランプ=マスクが援助を凍結した国々のリ…
  • 8
    「僕は飛行機を遅らせた...」離陸直前に翼の部品が外…
  • 9
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 7
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 8
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 9
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中