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投票者の年齢ピラミッドで分かる、日本で景気・雇用対策が二の次にされる訳

2024年7月17日(水)11時20分
舞田敏彦(教育社会学者)

選挙への投票率は国による違いもある。直近の選挙での投票率の年齢グラフを描くと、日本は右上がりの傾斜が大きい(「若年層の投票率が低ければ、教育や雇用政策は二の次にされる」本サイト、2023年11月15日掲載)。対してオーストラリアでは、どの年齢層も高い「高原型」だ。この国では選挙での投票は義務で、正当な理由なく棄権した場合は罰金を科される。

時代比較・国際比較の両面から見て、日本の若者の投票率の低さ(選挙離れ)は明らかだが、彼らは政治に何も期待していないわけではない。多くの要望を持っている。内閣府の『国民生活に関する世論調査』では、政府への要望を複数回答で尋ねている。横軸に20代、縦軸に70歳以上の選択率をとった座標上に、各項目のドットを配置すると<図1>のようになる。

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斜線よりも下にあるのは、高齢者より若者の要望率が高い項目だ。赤字は「若者>高齢者」の傾向が顕著なもので、景気対策、少子化対策、税制改革、雇用・労働問題対策、といったものが当てはまる。雇用・労働問題対策への要望率は、若者が42.1%、高齢者が22.4%と20ポイント近くも開いている。

若者の投票率が低いと、これらの項目は二の次にされる。国際統計によると、若年層の投票率が高い国ほど、政府の教育費支出の対GDP比が高い傾向にある(前掲記事)。国が教育振興にどれほど力を入れるかも、若者の政治への関心に左右されると言えるだろう。。

若者は政治に要望を持ってはいるものの、それだけではダメで、自分たちの願いを実現してくれる候補者(政党)を推すという、具体的な行動をとらないといけない。それが選挙での投票だ。陳情、デモ、インターネット上での意見表明など、政治参画の手段は多様化しているものの、選挙での投票が主な手段であることに変わりはない。

近年、若者の投票率を何とか高めようと、大学のキャンパス内に投票所を設けたり、ネット投票の導入が議論されたりしている。投票所に出向き、紙に候補者名を書いて箱に入れるというやり方は、今の若年層(デジタルネイティブ世代)には馴染まないのかもしれない。ネット投票が実現したら、<表1>の投票人口ピラミッドも変わる可能性がある。

<資料:総務省『国政選挙における年代別投票率』
    内閣府『国民生活に関する世論調査』(2023年11月)

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