最新記事
大学デモ

米学生デモは意外と「ユルい」? ...逮捕者続出も1番の心配は「スマホの行方」

2024年7月10日(水)13時56分
冷泉彰彦(在米作家、ジャーナリスト)
警官隊と対峙するパレスチナ支持のデモ隊

警察と対峙するデモ参加者は決死の覚悟......とは限らない(4月、ニューヨーク) AP/AFLO

<逮捕者が500人近くに及んだ米大学での反イスラエルデモ。参加した学生たちは「決死の覚悟」のように見えるが、逮捕によって人生を棒に振ることはないという──>

「まだまだ日本人が知らない 世界のニュース50」今や米ニューヨークの街角風景と化しているのが抗議デモ。昨年10月、ハマスの越境テロを契機にイスラエル国防軍がガザへの攻撃を開始して以来、ニューヨークでは大規模なデモが続いている。

特にコロンビア大学とニューヨーク大学では、ガザ情勢の悪化に伴ってパレスチナ支持派のデモが激化した。最終的には警察が動員され、キャンパスを占拠していたデモ隊の多くは逮捕された。4月から5月にかけて、逮捕者の総数は500人近くに及んでいる。学外者も交ざるが、大半は両大学の学生だ。


コロンビア大学とニューヨーク大学といえば、アメリカを代表するエリート校だ。その学生が逮捕覚悟で運動をしているというのは、それだけ意志が強固だから? いや、それだけではない。今のアメリカで、特にニューヨーク市においてデモを行って逮捕されても、ユルイ結果で済みそうなのだ。

たとえデモ参加で逮捕されても、人生を棒に振るような悲壮な事態になることはない。

そもそも、逮捕容疑が国家反逆やヘイトになることはないだろう。事前に発令された退去要請を無視したなどとして業務妨害や私有地占拠などの容疑で逮捕されるのが大方のパターンだ。要するに逮捕といっても微罪である。

また、身柄は拘束されるがその時間は短い。身分が特定され、写真撮影と指紋押捺を済ませ、法廷への召喚状が交付されれば、たった数時間から半日で釈放になる。

逮捕学生も警察も、その際に一番気にすることは──取り上げたスマホなどの私物が間違いなく本人に返却されたかどうか、という点なのだ。

一部の金融大手は、デモに参加した学生は就活時に採用しないなどと脅しているが、法的拘束力はなく、学生へのプレッシャーにはなっていない。また、親パレスチナのデモ隊が逮捕拘束された際に水や食事が提供されない事態も発生したが、この一件は警察の失態として処理された。

いずれにしても、学生は堂々とデモをして逮捕されるし、警察は淡々と逮捕を執行して裁判所に書類を送るというのが、ニューヨーク流。これはベトナム反戦運動以来の伝統とも言える。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米政権、相互関税を前に貿易障壁報告書を公表

ワールド

豪中銀、政策金利据え置き 米関税の影響懸念

ワールド

米大使館、取引先にDEI禁止順守を指示 スペインな

ワールド

トランプ米政権、ハーバード大への助成・契約90億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中