中国EVにひっくり返される? 日本車大国タイとの「固い絆」を日本が失う意味
MORE THAN JUST EV
中国が国家戦略としてEV化を推進している以上、タイの製造業もEV化に合わせた展開を模索することが重要であるとタイ政府は考えており、国内の自動車関連産業もEVシフトを進めたい意向である。
こうした事情から政府は多額の補助金を出し、国内でEVを普及させるとともに、製造業のEV対応を同時並行で進めている。
ここで重要となってくるのが、これまで強固なパートナーシップを構築してきた日本の自動車産業との関係である。
タイは中国の影響を常に受け続ける国であり、中国との関係を無視できない一面がある一方、中国には完全にのみ込まれたくないと考えている。タイとしては日本とのパートナーシップを今後も継続することで、中国に対する牽制球もしくは交渉材料にしたいと考えている。
日本の自動車産業がもっと積極的にEV化を進めてくれれば、中国を牽制しつつ、日本からもEV関連投資を受け入れ、同国を世界的なEV製造拠点として育成できるはずだった。ところが日本の自動車産業がEVに消極的だったことから、そのもくろみにはズレが生じ始めている。
日本メーカーは北米を主な販売先としており、東南アジアはあくまで製造拠点としての位置付けにすぎない。トヨタをはじめとする多くの日本メーカーは全世界的なEVシフトに対して「全方位で臨む」としており、EVだけに固執しない方針を示している。
そうなるとタイで製造する製品も従来と同様、内燃機関に関連したものとならざるを得ず、サプライチェーン全体のEVシフトを目指すタイとは利害が一致しなくなる。
首相が鳴らした異例の警鐘
昨年12月に日本を訪れたタイのセター・タウィーシン首相は、「日本に対して要求する立場にはない」と前置きしながらも、日本の産業界がEVに消極的なことについて「迅速に移行しないと後れを取るだろう」という異例の発言を行った。
中国がタイに巨額の投資を行い、中国製EVの一大製造拠点になろうとしている現実についても、「日本と中国のどちらを好むかというのは問題ではない。両国を分け隔てる必要はない」という厳しい指摘を行っている。
セター氏は慎重に言葉を選びつつも、このまま日本勢の消極的スタンスが続いた場合、タイは中国とパートナーシップを組むしか選択肢がなくなり、日本は自動車産業におけるアジア最大の拠点を失う可能性があると警告しているのだ。
タイは最も親日的な国の11つであり、日本の産業界との関係も深い。こうした国のトップから前述のような発言が出てくることは地政学的に見て危機的な状況と言える。