最新記事
注目ニュースを動画で解説

エコシティーで監視社会? サウジ皇太子が進める直線型都市「ザ・ライン」計画とは【アニメで解説】

2024年7月3日(水)13時51分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
「ザ・ライン」の完成予想図とムハンマド皇太子

Newsweek Japan-YouTube

<サウジアラビアで開発が進む未来都市「ザ・ライン」計画について解説したアニメーション動画の内容を一部紹介する>

サウジアラビアの事実上の国家元首ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が構想する直線型都市「ザ・ライン」。

砂漠の中に全長170キロ、幅200メートルの都市を造り、鏡貼りの壁で覆うという壮大なプロジェクトは「未来の街」と「監視社会」どちらに向かうのか──。

本記事では、本誌YouTubeチャンネルの動画「【サウジの砂漠に未来都市】全長170kmのスーパー直線都市は「未来の街」か「監視社会」か」の内容をダイジェスト的に紹介する。

◇ ◇ ◇

「ザ・ライン」計画は国際的にも広く知られており、国の再興を目指すムハンマド皇太子の野心の表れとも、独裁体制の実情を隠すための「目くらまし」ともされる。

ムハンマドは、2018年にトルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館で起きた反体制ジャーナリストのジャマル・カショギ殺害事件への関与を疑われており、こうした自身のイメージや独裁国家としての国のイメージの払拭をムハンマドは目指している。

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子

ザ・ライン計画は5000億ドルを投じてサウジアラビア北西部で進められている未来都市計画NEOMの一環。

「住みやすさと効率性を最大限に追求すると、都市は1本の線(ライン)になる」という発想の下、全長約170キロ、幅約200メートルの細長い都市を、高さ約500メートルの鏡貼りの壁で挟み込むという計画だ。

また、ザ・ラインは最高のエコシティーになるとされている。自動車を全く走らせない・二酸化炭素排出ゼロ・都市全体を網羅する高速地下鉄道の整備がその柱となっている。

サウジアラビア「ザ・ライン」計画

直線型都市の構想は、19世紀スペインや20世紀前半のアメリカ、ソ連でも打ち立てられているが、いずれも実現には至っていない。それは、街が無秩序に広がるのを防ぐために高レベルでの「管理」が必要となり、住民にもルールを課すことになるためである。

ザ・ラインは「AIが運営する世界初の認知都市」になると発表されており、全面的な監視は避けられないようだ。

サウジアラビア「ザ・ライン」計画

ただ、今年4月には第1弾の計画縮小が報じられた。2030年までに住人150万という目標は30万人へと変更になり、全長も170キロから約2.4キロへと短縮されるという。

加えて、現時点では高速鉄道の建設も進んでおらず、火災の際の対応や道路のない中で救急車を走らせる方法についても明示されていない。

サウジアラビア「ザ・ライン」計画

高さ500メートルの鏡貼りの壁に衝突しかねない鳥類や、新都市の壁で砂漠を横断できなくなる野生動物についても考慮されている気配はなく、建設が進めば最大で2万人の先住民ハウェイタット人が住む場所を追われるとされる。

サウジアラビア政府の行いすべてを「イメージ戦略」として受け止めるのは誤りだが、世界中の独裁者たちがこれに倣い、自らに好都合な物語を広める手段として幻想的なプロジェクトを利用する可能性には気を付けるべきだ。

サウジアラビア「ザ・ライン」計画


■より詳しい内容については動画をご覧ください。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッカーファンに...フセイン皇太子がインスタで披露
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 5
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 6
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中