エコシティーで監視社会? サウジ皇太子が進める直線型都市「ザ・ライン」計画とは【アニメで解説】
Newsweek Japan-YouTube
<サウジアラビアで開発が進む未来都市「ザ・ライン」計画について解説したアニメーション動画の内容を一部紹介する>
サウジアラビアの事実上の国家元首ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が構想する直線型都市「ザ・ライン」。
砂漠の中に全長170キロ、幅200メートルの都市を造り、鏡貼りの壁で覆うという壮大なプロジェクトは「未来の街」と「監視社会」どちらに向かうのか──。
本記事では、本誌YouTubeチャンネルの動画「【サウジの砂漠に未来都市】全長170kmのスーパー直線都市は「未来の街」か「監視社会」か」の内容をダイジェスト的に紹介する。
「ザ・ライン」計画は国際的にも広く知られており、国の再興を目指すムハンマド皇太子の野心の表れとも、独裁体制の実情を隠すための「目くらまし」ともされる。
ムハンマドは、2018年にトルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館で起きた反体制ジャーナリストのジャマル・カショギ殺害事件への関与を疑われており、こうした自身のイメージや独裁国家としての国のイメージの払拭をムハンマドは目指している。
ザ・ライン計画は5000億ドルを投じてサウジアラビア北西部で進められている未来都市計画NEOMの一環。
「住みやすさと効率性を最大限に追求すると、都市は1本の線(ライン)になる」という発想の下、全長約170キロ、幅約200メートルの細長い都市を、高さ約500メートルの鏡貼りの壁で挟み込むという計画だ。
また、ザ・ラインは最高のエコシティーになるとされている。自動車を全く走らせない・二酸化炭素排出ゼロ・都市全体を網羅する高速地下鉄道の整備がその柱となっている。
直線型都市の構想は、19世紀スペインや20世紀前半のアメリカ、ソ連でも打ち立てられているが、いずれも実現には至っていない。それは、街が無秩序に広がるのを防ぐために高レベルでの「管理」が必要となり、住民にもルールを課すことになるためである。
ザ・ラインは「AIが運営する世界初の認知都市」になると発表されており、全面的な監視は避けられないようだ。
ただ、今年4月には第1弾の計画縮小が報じられた。2030年までに住人150万という目標は30万人へと変更になり、全長も170キロから約2.4キロへと短縮されるという。
加えて、現時点では高速鉄道の建設も進んでおらず、火災の際の対応や道路のない中で救急車を走らせる方法についても明示されていない。
高さ500メートルの鏡貼りの壁に衝突しかねない鳥類や、新都市の壁で砂漠を横断できなくなる野生動物についても考慮されている気配はなく、建設が進めば最大で2万人の先住民ハウェイタット人が住む場所を追われるとされる。
サウジアラビア政府の行いすべてを「イメージ戦略」として受け止めるのは誤りだが、世界中の独裁者たちがこれに倣い、自らに好都合な物語を広める手段として幻想的なプロジェクトを利用する可能性には気を付けるべきだ。
■より詳しい内容については動画をご覧ください。