最新記事
中国

5つの独立運動に包囲された中国に「スイスモデル」という解決策

THE SWISS LESSON

2024年7月1日(月)16時01分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
清朝末期の中国地図

清朝末期の地図。濃い黄色は「中国」、薄い黄色は「属領」とある PUBLIC DOMAIN

<台湾・香港・内モンゴル・チベット・新疆の結託で包囲された中国だが、1648年のスイス独立に倣えば「火種のリング」を「緩衝のリング」にできるかもしれない──>

中国は6月21日、台湾独立派を取り締まる措置として、重大案件では死刑を認め、欠席裁判も可能とするという意見書を発表した。これは単なる「意見」にすぎず、全国人民代表大会が形式的に承認する法案ですらないのだが、直ちに施行された。

しかしこの動きを、法を超越した中国的暴挙と片付けてはならない。これは、中国周辺部の領土に絡んで次々と起きている危機を収束させるため、タイミングを計って取られた措置だ。その危機とは、次のようなものを指す。


①台湾で頼清徳(ライ・チントー)が総統に就任した。頼が率いる独立派の民進党が総統ポストを握るのは、この四半世紀で5期目となる。

②アメリカ外交は、1951年のサンフランシスコ平和条約と71年の国連決議2758の内容を各国に思い出させようと必死だ。サンフランシスコ平和条約は台湾の帰属を定めていない。国連決議2758は中華人民共和国を中国唯一の代表政府として承認したが、台湾が中国に帰属するとは明言していない。

③米議会が先頃、中国政府とダライ・ラマ14世との間でチベット問題を交渉で解決するよう求める法案を超党派で可決した。

④香港独立運動が、2019年のデモは頓挫したものの、その後支持を広げている。

⑤中国周辺部の5地域(台湾、香港、内モンゴル自治区、チベット、新疆ウイグル自治区)の独立運動がその規模も、地域の歴史や民族的背景も違うのに、結託して中国を「火種のリング」として包囲している。

より正確に言えば、包囲している対象は「中国本土」と呼ばれる中国の内地だ。

明朝が初めて採用し、18世紀後半以降に欧米と日本の研究者が広く使い始めたこの概念は、歴史的に漢民族が多数派である地域を、清朝以降に中国に組み入れられた地域と対比して指すもので、15もしくは18省だけをいう(現在の中国は台湾を除くと22省で、自治区、直轄市、特別行政区を含め33の「省級地方」がある)。

◇ ◇ ◇


中国と西側諸国との関係悪化は、5つの独立運動について新たな認識を広めるのに一役買いそうだ。

これら周辺地域の独立運動には歴史的・道徳的な正統性があり、国際的な強い賛同と支援を受けるに値する。さらに中国の人権侵害の過酷さを考えれば、虐げられている人々にとっての有効な解決策は民族解放しかないという認識だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週間ぶり増=ベーカー

ワールド

アングル:米大麦農家、ビール消費減少とトランプ関税

ワールド

アングル:広がる米国「援助停止」の影響、中国や日韓

ワールド

アングル:消される女性のヘルスケア情報、団体や事業
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔平が見せた「神対応」とは? 関係者に小声で確認していたのは...
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 6
    止まらぬ牛肉高騰、全米で記録的水準に接近中...今後…
  • 7
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 8
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 7
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 8
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 9
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 10
    ローマ人は「鉛汚染」でIQを低下させてしまった...考…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中