能登半島地震から半年、メディアが伝えない被災者たちの悲痛な本音と非情な現実
REFLECTING THE FUTURE
仮設住宅の非情な現実
やっと故郷に戻れるというのに、「住めない」仮設とは一体どんな場所にあるのか。車で向かうと、二井の言う輪島市杉平町「サンアリーナ駐車場」の仮設住宅に行くには、亀裂の入った急勾配の坂道を上らねばならず、反対車線は陥没していた。高齢者がこの坂道を歩いて行き来するのは体力的に難しく、車がなければ買い物に出かけるのもままならないだろう。
駐車場に軽自動車を止める高齢男性2人がいたので、プレハブ式仮設の中を見せてもらう。4畳半ほどの部屋が1つ。小さなキッチンとトイレと浴室、それに電化製品が一式そろってはいるが、91歳と81歳の兄弟2人が生活するにはあまりに狭い。
前日に、辻田政俊が口にしていた「弱者に配慮のない割り振り」「知らない部落の仮設に入ったら、それこそ孤独死や」という言葉が思い出される。
仮設住宅には、一般的に音漏れがしやすいといわれるプレハブ式と、2年を過ぎても災害公営住宅に転用し居住可能な黒い屋根瓦付きの木造長屋型がある。2つのどちらに当たるかも、住民の間で不公平感が募る一因になっている。
しかし、市としてはプレハブ式と木造長屋型を等しく応急仮設住宅として扱っており、入居募集のときにどちらを希望するかも聞いていないと、輪島市まちづくり推進課の上畠茂雄課長は説明する。
どちらに割り振られるかは、「元の住居に近いかどうか」が一つの基準。そのほか、「全壊など被災の程度、高齢者のみ、要支援者など、細かくは言えないんですけど、いろんな基準を設けて点数を付けて選考している」。
車を持っているかどうかは入居募集の際に確認しておらず、山の上であっても「無料巡回バスは走らせているし、住めないということはない」。木造長屋型も入居期間は2年で、「住宅の造りとして」2年を超えても住めるというだけで、その後の活用方法は決まっていないという。
上畠によれば、「応急仮設住宅の当初の目的は、少しでも早く避難所生活を解消すること」だ。住民一人一人の事情に応じて、その全てに配慮しようとすれば「収拾がつかなくなる」と言う。市役所にかかってくる電話を受ければ30分、窓口では「座ったら1時間」という対応を、職員は毎日やっている。
市職員も程度の差こそあれ、ほぼ全員が被災しており、休み返上で働き続けてきた彼らの負担も想像に難くない。まちづくり推進課のドアに貼られた紙には、「入居要件に関して執拗な要求が続くと不当要求行為とみなし警察へ通報する場合があります」と赤い文字で書かれていた。