最新記事
能登半島地震

能登半島地震から半年、メディアが伝えない被災者たちの悲痛な本音と非情な現実

REFLECTING THE FUTURE

2024年7月1日(月)10時40分
小暮聡子(本誌記者)

newsweekjp_20240701012829.jpg

南志見地区の仮設住宅の外に1人でいた大谷いく江 KOSUKE OKAHARA FOR NEWSWEEK JAPAN


 

過疎高齢化で「全滅」する

倒壊家屋はそのままでも、少しずつ新生活を始めている集落がある。1月にヘリコプターで集団避難して大きく報じられた輪島市南志見地区だ。集落に建てられた2つの仮設住宅を訪れると、金沢など市外に避難していた住民たちがそれぞれ4月と5月に戻ってきていた。

輪島市中心部から約10キロ離れた南志見地区は地震後、海沿いの国道249号が土砂崩れで寸断され、一時孤立した。迂回路を整備して5月初めにようやく開通した249号を車で走ると、海沿いに「能登の里山里海」を象徴する白米千枚田が広がる。

今年も約1000枚の田んぼのうち、一部ではあるが田植えが行われた。青空が広がるこの日は、水鏡のようにきらめく棚田と、ぴんと上向く青々とした苗が目に飛び込んできた。

旧南志見小学校グラウンドに54戸建てられたプレハブ式仮設住宅を訪ねると、人けのない敷地内に、独り手押し車に腰かけている女性がいた。集団避難先の金沢から戻って4月12日に入居したという大谷いく江(94)は、約4畳半の部屋で1人暮らし。車の運転どころか歩くことも不自由だ。

集落のみんなと「一緒のつもり」で帰ってきたと言うが、この仮設は日中、住民たちが家の片付けなどに出て行っているのか、人の気配を感じない。息子は県南の能美市で生活しており、大谷は毎日ほぼ静まり返った仮設で1人で過ごす。これは他の仮設住宅でも聞いたことだが、個人情報保護の関係で仮設に誰が入居しているのかは住民同士で共有されていないそうだ。

行政が掲げる「コミュニティー維持」と矛盾する対応だが、南志見地区の大西山という集落で1人暮らしをしていた大谷に話を聞くと、どうやら寂寞とした生活はこの仮設住宅だからではなく、震災前から始まっていた。

「家におったときは私ずっと独りぼっち。それでも家の周りには、草むしったり、菜っ葉作ったりと仕事あったから。わずかな田んぼやけど、みんな真剣やからその米で生活しとったし、(地元の商店の)中島さんなんか、電話すれば大根1本でも、梅干しつけるって言えばシソでも何でも持ってきてくれて、みんなあの人のおかげで生活しとった。でも今は、家帰っても生活できません。1人暮らしは無理です」

大西山集落には、かつては踊ったり唄をうたったりという伝統文化を保存する「民謡保存会」という組織があり、祭りとなれば外から人を呼んで、キリコ(燈籠)を担いでもらってごちそうを振る舞った。だが、にぎわいを見せていたのは過去の話。近年は人がどんどんいなくなり、地震前には20戸ほどに減っていた。

それでも住人たちは育てた農作物を分け合い助け合って生活していたが、地震で一変した。震災で商店が一軒もなくなり、生きる糧としていた田んぼも失われてしまったからだ。大谷は「私の部落、もはや人がいないから。地震で全滅ですね。何ひどいこと言うがやって言われるかもしらんけど、全滅と一緒」と語気を強めた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ経済、第4四半期は緩やかに成長 サービス主導

ワールド

資産差し押さえならベルギーとユーロクリアに法的措置

ワールド

和平計画、ウクライナと欧州が関与すべきとEU外相

ビジネス

ECB利下げ、大幅な見通しの変化必要=アイルランド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中