最新記事
BOOKS

「コメント見なきゃいいんですよ、林さん」和歌山カレー事件・林眞須美死刑囚の長男の苦悩

2024年6月27日(木)21時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

印南 売るためにそういう書き方をするんだろうけど、さすがに理解できないな。

 たとえば姉の件に関してネットニュースに、「カレー事件の長女、関西国際空港で飛び降り自殺。父親林健治、娘の旦那を殴ってやりたいと語る」って書かれたんです。すると、「お前らが犯罪したからこうなったんだろう」というコメントであふれるんですね。そうなることは誰でも想像できるはずなのに、(メディアは)やっぱり書くんです。

印南 刺激的なヘッドラインで目を引かせて読ませようとしているんだろうね。

 「ちょっとこれは勘弁してもらえませんか?」って電話すると、「そのコメントを見なきゃいいんですよ、林さん」って言うんです。「目を通すから嫌な気持ちになるんです」って。

印南 あー、「見なきゃいい」っていうのはありがちな、しかし軽薄な反論だ。

 見なきゃいいじゃないですかと言うけど、「いや、僕が見なくても、老人ホームの職員や、僕の職場の同僚や、友だちが見たりしたら、僕たちも生きにくくなるんで」って。

そのとおりで、当事者との距離が広がるほど、つまり「自分には関係のないこと」として語れる立場であればあるほど、人は無責任になるものかもしれません。その結果、外野の傍観者でしかない人たちは、言いたいことを口にしてしまうことになるのでしょう。

印南 そういえば、いまの職場の人は事件のことを知っているの?

 バレてはいないんですけども、社長だけ知っている状態です。でも休憩時間にも、子どもがいる人だったら子どもの話をしたりするので、あんまり事件の話題にはならないというか。とはいえ、それでも姉が亡くなった話が報道されたときなどには、事務所でも話題にはなっているんですよね。「死んで当然やろう」みたいに。僕が身内だとは知らないのでね、平気で言ってるんですけど。

印南 それはきついね。

 「そんな事件があったんですね」とか合わせてごまかしながら。

印南 無関係を装うというのは、すごく疲れることだろうね。

 飲み会とかの席でも先輩とかは、「俺、昔何人しばいちゃったんやで」とか、けんか自慢みたいな、武勇伝みたいなことを言うわけですよ。でも、うちも伝家の宝刀出したら、ワル自慢でいうたらね、そんなレベルじゃない。まあ出さないですけど(笑)。「こんなとこで出したら場の空気壊れるしな」とか思いながら、グッとこらえて、「かっこいいですね」みたいなことを言いながらやり過ごしてきてたので。

トラックドライバーとして働きながらメディアの対応をしている林くんは、プライベートもなにもない状態。想像してみただけでも大変そうです。

『抗う練習』
抗う練習
 印南敦史 著
 フォレスト出版

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米政権、相互関税を前に貿易障壁報告書を公表

ワールド

豪中銀、政策金利据え置き 米関税の影響懸念

ワールド

米大使館、取引先にDEI禁止順守を指示 スペインな

ワールド

トランプ米政権、ハーバード大への助成・契約90億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中