最新記事
米大統領選挙

イーロン・マスクはなぜトランプを支持するのか? 問題児2人の不思議な「蜜月関係」

THE MUSK-TRUMP BROMANCE

2024年6月27日(木)15時48分
ニティシュ・パーワ(スレート誌ライター)

newsweekjp_20240627021651.jpg

Xをめぐるマスクの言動は明らかに共和党とトランプ支持に傾いている。グリーンテックの象徴だったテスラの経営がおろそかになっているとも指摘されている ARTUR WIDAKーNURPHOTOーREUTERS

マスクはテスラ(当時はテスラモーターズ)を乗っ取ってその電気自動車(EV)ビジネスを支えた。草創期だった米国内の太陽光パネルやエネルギー密度の高い充電池の市場にも投資し、気候変動が自らのビジネスの動機である理由について発言を続けた。

環境意識の高いセレブたちはマスクの発言や行動を見て、マスクの知名度向上に力を貸したり映画にテスラの車を登場させたりした。

Xは右翼プロパガンダの巣窟

もちろん宇宙への夢や、NASAとスペースXとの契約が果たした役割も決して小さくはない。だが未来に向けたマスクの目標の中において、ガソリンを使わない自動車などの環境技術は大きな比重を占めていた。


そのことは、トランプ政権初期におけるマスクとトランプとの関係にも少なからず影響を及ぼした。2016年の大統領選では民主党のヒラリー・クリントンに投票したマスクだったが、17年初めにトランプの諮問委員会のメンバーになった。

トランプの周囲が「過激論者ばかり」で固められているよりは、「穏健派」のアドバイザーがいたほうがいい、というのがその時のマスクの言い分だったが、長続きはしなかった。

気候変動に関するパリ協定からのアメリカの離脱を受け、マスクは「残留すべきだと大統領に直接、助言するためにやれることは全部やった」と言って辞任した。

マスクは20年の大統領選ではバイデンに投票したと繰り返し述べている。

だがマスクの伝記『イーロン・マスク』(邦訳・文藝春秋)を書いたウォルター・アイザックソンによれば、投票日にマスクは家から出なかったという。自分が票を投じなくても選挙結果に変わりはない、というのが理由だったらしい。

またアイザックソンは、21年に大統領主催で行われたEV関連のイベントに招待されなかったことで、マスクはバイデンへの反発を強めたと指摘している。

一方で、23年にはテスラの急速充電器「スーパーチャージャー」のネットワークを一般に開放する協定をバイデン政権と交わし、スペースXとテスラは米政府との契約を大量に獲得している。

しかし、現政権の規制推進や労働組合寄りの姿勢にいら立つ超富裕層の仲間と同じように、マスクはますます右傾化していった。

マスクの政治はイデオロギーの問題だったのか、それとも個人の富の問題だったのか。党派にこだわらない政治献金や大物共和党議員との衝突を考えると、常に後者が前者の根底にあるようだ。

いずれにせよ、トランプへの寄付や支持については曖昧な態度を続けているが、公的な発言やイデオロギー的なコミットメントは、今や完全に前大統領支持に傾いている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中