ロシアにイスラム過激派の脅威、ウクライナとの二正面
6月25日、 ロシアのプーチン大統領は、ウクライナで続く戦争が西側諸国との間で繰り広げられている存亡を賭けた闘争の一環であり、全ての国力を集中させる必要があると訴えている。写真は3月、モスクワ近郊のコンサートホールで起きた銃乱射の犠牲者を悼む式典で、ろうそくに火を灯すプーチン氏(2024年 ロイター/Sputnik/Mikhail Metzel)
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナで続く戦争が西側諸国との間で繰り広げられている存亡を賭けた闘争の一環であり、全ての国力を集中させる必要があると訴えている。しかし23日にダゲスタン共和国で起きた教会などの襲撃事件は、ロシア国内でイスラム系武装勢力の脅威が増大しつつあり、プーチン氏が資源配分の見直しを迫られる可能性を浮き彫りにした。
ロシア正教の教会やシナゴーグ(ユダヤ教会堂)、交通警察詰め所などが武装勢力に襲われ、少なくとも20人が死亡したこの事件で、ロシアの情報部門や治安部門が適切に対処しているのかとの疑問が浮上している。
これらの部門は対ウクライナ戦や、ウクライナに関係する勢力がロシア国内で起こす攻撃の可能性へ大半の注意を向けていたところで、まさに不意打ちを食らった形だ。
元ロシア政府のアドバイザーでダゲスタンを含む北カフカス地方の訪問から戻ったばかりのセルゲイ・マルコフ氏は「ロシアでイスラム過激派が再び台頭してきている。テロを巡る問題が存在し、それが非常に深刻であるのは間違いない」と語った。
報道によると、今回の襲撃事件には4月までテロ対策会議を主催していた地元当局者の親族2人や、親ロシア政党の派生団体に属していた人物などが関係しており、地域エリートへのイスラム過激派の浸透ぶりがうかがえる。
さらにこの事件で、国内の治安を確保するというプーチン氏が長らく国民に対して行ってきた約束も揺らぐことになる。
同時にロシア指導部は、大多数がイスラム教徒で貧困にあえぐダゲスタンの統治方法の再検討も必要となるかもしれない。
ダゲスタンでは昨年10月にも、マハチカラの空港でイスラエルのパレスチナ自治区攻撃に抗議するデモ隊が暴徒化し、滑走路に侵入してイスラエルからの到着機を取り囲む騒動が起きている。
一方でダゲスタンはロシアにとって軍事的に重要な場所で、ロシア海軍カスピ小艦隊の軍港が建設中だ。
この地域の紛争情報を伝えている中立系団体「ホラサン・ダイアリー」のリッカルド・バッレ氏はロイターに、過激派組織「イスラム国」(IS)などがロシアとウクライナの戦争が自分たちにもたらしている活動機会について話し合っていると明かした。
バッレ氏によると、この戦争でロシアと西側はISとの対決で重要な協力ができなくなり、ロシア側はIS問題に十分な資源を振り向けられなくなった。またダゲスタンで起きた今回の事件で、ロシアの情報収集分野で「大きな穴」があることも分かったという。
同氏は、西側とロシアがいずれもウクライナに関心を注ぐ中で、イスラム過激派がその間隙を突いて攻撃を仕掛けられると指摘した。
相次ぐ事件
今年3月にはモスクワ郊外のコンサートホールが武装集団に襲撃され、150人近くが犠牲になる事件があった。またほんの1週間前には、ロシア南部ロストフ・ナ・ドヌーの拘置所で、ISに関係する受刑者グループが職員を人質に取る騒動が発生した。