イランの核武装への兆候か? イスラエルとの初交戦と大統領墜落死が示すもの
IRAN EXAMINES THE NUCLEAR OPTION
Morteza Nikoubazl via Reuters Connect
<イスラエルとの初の直接交戦、大統領の墜落死......核政策の転換を示唆する要人の相次ぐ発言は、追い詰められたイランが核武装に踏み切るサインか>
イランは長年、中東で最も進んだ核開発計画と最も強力な通常兵器を維持してきた国の1つ。この国の権力者たちは大量破壊兵器の開発禁止という公式の立場を再考し始めている。その背後にあるのが、この地域における緊張の高まりと安全保障環境の悪化だ。
この動きは核兵器を保有するイスラエルとアメリカの猛反発を招いているが、イランにとっては大きなリスクとチャンスの両方をもたらしそうだ。現在も続くガザ戦争をめぐる深刻な情勢不安は、イランとイスラエルの間で史上初の直接攻撃の応酬にエスカレートした。それを受けてイランの要人たちは、核保有へ舵を切ることによる抑止力強化を以前にも増して重視しつつある。
最高指導者アリ・ハメネイの上級顧問を務めるカマル・ハラジ元外相もその1人だ。ハラジは5月9日、現在のイランは核兵器開発を行っていないと繰り返す一方、「イランの存立自体が脅かされれば、核政策を変更しなければならないだろう」と言った。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の威嚇が現実となり、イラン核施設が攻撃対象になった場合、核政策の変更は「あり得ることであり、想定の範囲内だ」。
イラン国内の別の有力グループからも同様のメッセージが出ている。イラン革命防衛隊のアフマド・ハグタラブ准将(核防護・警備部隊司令官)は4月にこう宣言した。「核政策とイスラム共和国の諸政策の修正、これまで表明してきた配慮との決別は可能であり、考えられる事態だ」
5月19日にはイブラヒム・ライシ大統領がアゼルバイジャン国境付近でヘリコプター墜落事故により死亡した。原因はまだ調査中だが、この出来事はイランという国家の安定をめぐる懸念をさらに強めかねない。
かねてからイランの当局者は、必要ならどんな手段を使っても自国を守ると強調してきたが、イランや国連、アメリカの元当局者は、最近の発言の変化を単なるポーズと見なすことはできないと本誌に語る。
国連軍縮研究所の元研究員で、現在はジュネーブ国際問題高等研究所グローバル・ガバナンス・センターの上級研究員を務めるファルザン・サベットは、「地域の緊張が極めて高まっている今、憂慮すべき発言の変換」だと指摘する。
イランの核開発計画は長年、国際的な監視対象になってきた。秘密裏に核兵器保有を目指しているのではないかと疑われてきたからだ。
核開発計画は1950年代の王政時代にアメリカの支援で始まり、79年のイスラム革命で王政が倒れた後も拡大し続けた。イスラム共和制を創始した最高指導者ルホラ・ホメイニからその座を引き継いだハメネイは、その数年後の90年代に核兵器開発に反対するファトワ(宗教令)を出したとされている。