最新記事
宇宙

ブラックホールの「目覚め」初観測...「前例がない挙動」

Black Hole Awakening Observed for First Time

2024年6月21日(金)11時40分
ジェス・トムソン
超大質量ブラックホールが活性化 via REUTERS

超大質量ブラックホールが活性化 via REUTERS

<遠い銀河の中心にある超大質量ブラックホールが突如活動を再開し、観測史上例のない輝きを放っている>

遠い銀河の中心にある、超大質量ブラックホールが活性化しているようだ。

学術誌「アストロノミー・アンド・アストロフィジックス」で発表された最新の研究によれば、地球から3億光年のかなたにあるSDSS1335+0728という銀河が、2019年に突然、観測史上例がないほど明るく輝き始めたという。

この変化に気付いた天文学者たちは、この急激な明るさの増加は、銀河の中心にあるブラックホールが突然「目覚めた」ことによる可能性があると示唆している。

ヨーロッパ南天天文台(ESO)の天文学者で、研究論文の共著者となったドイツの研究者、パウラ・サンチェス=サエスは、声明の中で以下のように語っている。「いつも穏やかで、活動していないように見える遠い銀河を長年観察していたところ、その(中心の)明るさが突然、これまで見たことがないほど劇的に変化し始めたところを想像してみてほしい」

「このような挙動は前例がない」と、サンチェス=サエスは述べている。

超新星爆発、星がブラックホールに飲み込まれる潮汐破壊現象など、突発的な出来事によって銀河が光り輝くことはあるが、こうした現象は通常、1年足らずで終わる。一方、SDSS1335+0728は、2019年以降、明るさを増し続けており、その明るさに奇妙な変動が見られることから、超大質量ブラックホールの目覚めによるものである可能性が示唆されている。

超大質量ブラックホールは、太陽の数十万〜数十億倍の質量を持つ巨大なブラックホールで、わたしたちの太陽系が所属する「天の川銀河」を含む、ほとんどの銀河の中心に存在する。

チリのディエゴ・ポルタレス大学に所属する研究者クラウディオ・リッチは声明の中で、「通常、これらの巨大モンスターは眠っており、直接観測できることはない」と述べている。「ところが、SDSS1335+0728のケースでは、巨大ブラックホールの目覚めを観測できた。(ブラックホールは)突然、周囲のガスを飲み込み、明るく輝き始めた」

研究チームによれば、SDSS1335+0728は、「活動銀河核(AGN:active galactic nucleus)」を持っている可能性が高いという。AGNとは、銀河の中心にある超大質量ブラックホールを取り巻く、非常に明るい領域のことだ。このブラックホールが2019年に突然目覚め、AGNはこれまで以上に明るく輝くようになった。ブラックホールがガスや塵を吸い込むにつれて、さらに明るさを増していった。

研究に参加したロレーナ・ヘルナンデス=ガルシア(チリのヴァルパライソ大学、およびミレニアム宇宙物理学研究所に所属する研究者)は声明の中で、「この現象に関する最も現実的な説明は、銀河(の中心)が...活動を...始めたところを目撃しているというものだ」と述べている。「もしそうであれば、巨大ブラックホールの活性化を、初めてリアルタイムで目撃していることになる」

このブラックホールがなぜ突然目覚めたかは不明だが、このような現象がリアルタイムで観測されたのは初めてのことだ。

ヘルナンデス=ガルシアによれば、「(このような)プロセスは......これまで観測されたことはない」

天文学者たちはさらに観測を続け、ブラックホールが目覚めた要因を特定し、ほかの可能性を完全に排除したいと考えている。

サンチェス=サエスは、「変異の性質にかかわらず、(この銀河は)ブラックホールがどのように成長・進化するかについての貴重な情報をもたらしてくれる」と語る。「(超大型望遠鏡VLTの超広視野面分光装置MUSEや、建設中の超大型望遠鏡ELTに搭載される)観測機器が、(SDSS1335+0728が明るくなっている理由の)解明の鍵になることを期待している」

(翻訳:ガリレオ)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中