「東と西、南と北の架け橋へ」地政学上の鍵を握るサウジアラビアが目指す「サウジ・ファースト」の論理

ARABIAN MIGHT

2024年6月21日(金)14時33分
トム・オコナー(本誌中東担当)

newsweekjp_20240620020957.jpg

2017年10月、モスクワを訪れたサルマン国王。サウジアラビアは中ロとの関係強化に積極的 MIKHAIL SVETLOV/GETTY IMAGES

メガディールをめぐるアメリカとサウジアラビアの交渉がまとまれば、双方に大きな恩恵があるが、アメリカはこれまでのアプローチを修正しなくてはならないと、カウシュは指摘する。

「サウジアラビアが同盟関係を取引的な関係と見なすようになっていて、アメリカの意向に沿った行動を基本的に取るとは限らないと理解する必要がある」

しかし、ここ数年のアメリカの中東政策はそのような理解につながるものではないと、カウシュは懸念している。「アメリカ政府は、イランへの対抗、そして中国およびロシアとの競争という視点でしか中東地域を見ていない」

米プリンストン大学のバーナード・ヘイケル教授(中東地域研究)も、サウジアラビアの戦略上の立場が変わったと指摘する。「サウジアラビアは、アメリカが全てを牛耳る時代ではなくなり、世界が多極化に向かっていることを認識している」

ムハンマドと直接連絡を取る関係にあるヘイケルは、皇太子の主導によりサウジアラビアの目指す方向が大きく変わったと語り、その新しいアプローチを「サウジ・ファースト」という言葉で表現する。

「ほかのどのようなイデオロギーでもなく、ナショナリズムを意識して行動する面が強まった」と、ヘイケルは言う。

「地域の利害よりも自国の国益を前面に押し出すようになった。以前は、アラブ世界全体やイスラム世界全体の利益、そしてアメリカの利益を重んじていた」

「国益を最優先にし、自国を変容させて経済を多角化させ、石油依存を減らそうとしているサウジアラビアは、その一環として、米中の両方と同時に良好な関係を築こうとしている」と、ヘイケルは分析する。

ヘイケルは、アブドラ前国王の下で始まったイスラム主義者に対する弾圧にも注目している。

「(ムハンマドは)イスラム主義と決別し、信仰心などイスラム教のもっと伝統的な考え方を重んじてきた。そうした考え方は......政治の側面ではよりナショナリズムの色彩が強い」

ムハンマドのこの路線の下で、社会変革をさらに前進させる道が開けた。女性の自動車運転が解禁されたり、女性への男性後見人制度(女性が外国旅行などをする際に男性親族の同意を義務付ける)が緩和された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:インド経済最大のリスクは「水」、高成長の

ワールド

アングル:忍び寄る「ヒトからヒト」へ、科学者が恐れ

ワールド

英スターマー新首相、組閣に着手 女性初の財務相にリ

ビジネス

米国株式市場=ナスダックとS&P最高値、米早期利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVの実力
特集:中国EVの実力
2024年7月 9日号(7/ 2発売)

欧米の包囲網と販売減速に直面した「進撃の中華EV」のリアルな現在地

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 2
    携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカードの「基本概念」を根本的にひっくり返す悪手だ
  • 3
    「黒焦げにした」ロシアの軍用車10数両をウクライナ部隊が爆破...ドローン攻撃の「決定的瞬間」が公開される
  • 4
    「下手な女優」役でナタリー・ポートマンに勝てる者…
  • 5
    「天井に人が刺さった」「垂直に落ちた」── 再び起き…
  • 6
    和歌山カレー事件は冤罪か?『マミー』を観れば死刑…
  • 7
    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…
  • 8
    観光客向け「ギャングツアー」まであるロサンゼルス.…
  • 9
    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…
  • 10
    一期一会を演出する「奇跡」の人気店は数年で潰れる.…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 3
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「帰ってきた白の王妃」とは?
  • 4
    携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカ…
  • 5
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」.…
  • 6
    黒海艦隊撃破の拠点になったズミイヌイ島(スネーク…
  • 7
    キャサリン妃は「ロイヤルウェディング」で何を着た…
  • 8
    H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかか…
  • 9
    キャサリン妃も着用したティアラをソフィー妃も...「…
  • 10
    「地球温暖化を最も恐れているのは中国国民」と欧州…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 3
    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア
  • 4
    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 5
    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…
  • 6
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 7
    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…
  • 8
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地.…
  • 9
    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…
  • 10
    「何様のつもり?」 ウクライナ選手の握手拒否にロシ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中